【完結】その口止め料は高すぎますっ
スーツケースを部屋に置いて、バスルームはあっちでキッチンは…と一通り家についての説明を受けて、合鍵を渡される。
小原さんの口調はてきぱきと要領がよく、ホテルマンに宿泊の説明を受けている錯覚を起こしそうになった。

「帰宅時間はたぶん俺のほうが遅いだろうけど、作れる日は夕飯を作ってほしい。料理の腕のほうは?」

「ありふれたものしか作れないんですけど。ハンバーグとか筑前煮とか」

「うん、それで十分だ」

「そんなのでいいんですか?」
戸惑いながら訊いてみる。

「彼女の手料理エピソードがあるとリアリティがでる」

そういうことか。小原さんの抜かりなさに舌を巻く。
気がつけば、自分でも驚くことにわたしもだんだんその気になってきた。

小原さんに乗せられてきたのかもしれない。やるならとことん彼のかりそめの恋人を演じ切ろう。
これは彼のお父様に安心して手術を受けてもらうための、いわば人助けだと自分に言い聞かせて。
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