【完結】その口止め料は高すぎますっ
出勤はなんと直斗さんが運転する車に乗せてもらった。

「今日は会社に直行だけど、職種柄あっちこっち訪問や打ち合わせが多いんだ。だからマイカー通勤を認めてもらっている。会社のすぐ近くにうちの契約駐車場があるんだ。毎朝送ってやれなくて悪いけど」

「そんな、十分すぎるくらいです」
ありがたいけど、誰かに見られたらどう言い訳しようと頭を悩ませる。

そうしてわたしはまたひとつ直斗さんの魅力を知った。鼻梁から顎のラインの端麗さ。ハンドルを握る指の節が高く、力がこもるとすっと筋が浮く。

車内でも直斗さんは積極的に話題をふってくれた。
わたしのことを知ろうと努めてくれる彼の姿勢に、構えることなく言葉を返すことができた。
わたしも小原さんのことを少しでも知っていかないと。婚約者を演じるんだからと自分に言い聞かせた。

会社に着いて、自分のデスクに座るとなぜだかほっとした。いつもの自分の席、いつもの仕事だ。
ちょっと手が空いたタイミングでトイレに行き、リップを塗った。アイメイクに合わせて、テラコッタっぽいカラーの一本をポーチに入れてきた。
塗って、なじませて…お、いい感じ。
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