【完結】その口止め料は高すぎますっ
連絡どおり8時すこし前に直斗さんが帰宅した。

「ただいま」
「おかえりなさい」

初めて自分のうちのインターフォンを鳴らしたな、と一緒に廊下を歩きながら彼がつぶやく。
「自分で鍵開けたほうがいいかな。ジャマにならない?」

「え、全然そんなことないです」

夕飯の支度とかお風呂とかあるかもしれないけど、帰ってきたひとのためにドアを開けて出迎えたいと思う。それは家族がずっとわたしにしてくれたことだったから。

いいにおい、と直斗さんが顔をほころばせる。

用意したのは、ごくごく普通のメニューだった。
ハンバーグにいんげんのソテーを添えて。副菜はレンコンのきんぴら。それとワカメとネギのお味噌汁という、SNS映えとは無縁の食卓だ。

いただきます、と味噌汁をすすって「なんか懐かしい」と彼がつぶやいた。
「ひとりだとこんな夕飯食べることがないから」

「実家の夕飯の献立がこんな感じだったんです。おかずがたとえばトンカツならキャベツの千切りを添えて、それと小鉢がひとつふたつ付いて、あとお味噌汁っていう」
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