【完結】その口止め料は高すぎますっ
品のいい年配の女性の姿がまず目に入った。直斗さんのお母様だ。
そして奥のベッドで男性が体を起こしている。

お邪魔します、と口の中でつぶやきながら、直斗さんに続いて部屋に足を踏み入れる。

牧瀬花乃さん、と直斗さんがわたしを紹介するのに合わせて、ぺこりと頭を下げた。
「はじめまして、牧瀬です」

「はじめまして、直斗の母です」

顔を上げると、柔らかな笑顔と視線が合わさる。
この年代の女性にしては背が高くすらりとしている。姿勢のよさも相まって、洗練された都会的な女性という印象だ。

「主人です」
と体をひねって、ベッドの方をしめす。

「はじめまして」
ベッドに半身を起こした状態で、彼があごを下げる。顔の輪郭が直斗さんによく似ていた。
食道にできた腫瘍のせいで流動食になり、だいぶ痩せてしまったと直斗さんが言っていたように、面やつれしている印象を受ける。

「牧瀬です。直斗さんにはいつもお世話になってます」
頭の中で何度も繰り返していた文句を口にする。ここまではいいとして、後がどう続くのか…
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