【完結】その口止め料は高すぎますっ
その後ろめたさと、緊張が切れたことで、帰りの車中でわたしはほとんど口を開かなかった。というより開けなかった。
直斗さんもあえて話しかけてこようとはしない。

彼はなにを思っているんだろう。

わたしは遠からず直斗さんとは破局する、という設定だ。
それをご両親が知らされるときには、わたしはその場にいないだろうけど。
どれだけ悲しませ、失望させてしまうことになるんだろう。

ちらりとハンドルを握る直斗さんの横顔を見つめる。涼やかな横顔からは、なにひとつ感情を読み取れない。

疲れただろ、ぽつりと直斗さんがつぶやきをもらしたのは、そろそろマンションに到着する頃合いだった。
「夕飯はどこか近くに食べにいこうか」

いえそんな、と反射的に口にする。
疲れた、とは違うのだけど。その感情を明確に言語化することはできなかった。

「…昨日のうちに、お肉をマリネしてあるから。あとは焼くだけなんです」
だから夕飯の話で場をにごす。

そうか、と彼は口の中でだけ答えた。
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