【完結】その口止め料は高すぎますっ
「美味いなこれ」
直斗さんもお世辞ではなさそうに箸が進んでいる。

「オーブンの機能がいいから、料理が楽なんです」
半分謙遜、半分本音だ。

「また作ってよ」

あ、いいですね、なんて返したものの、『また』という言葉は飲み下せずにしこりのように喉の奥に引っかかってしまう。
考えてもしょうがないのに。

食事を終えて、空の皿をシンクに下げてざっと水洗いして、食洗機に収めていく。

キッチンに直斗さんが入ってくるのが視界のはしに映ったけど、わたしはそれほど気に留めなかった。
前にもわたしが後片付けをしている間に、彼がコーヒーを淹れてくれたことがあったから。今回もそうなのかなとちらりと思う。

けれど、気づけばすぐ背後に彼の気配が立っていた。
さすがにけげんに思って振り向こうとしたところを、背後から手を回して抱きすくめられる。
< 78 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop