【完結】その口止め料は高すぎますっ
体調が万全でないことなどみじんも感じさせずに立ち動く香帆ちゃんの姿は、さすがプロの一言だ。

「奥二重なので、アイシャドーをしても目元が重く見えてしまって」

「グラデーションで、目元を広げるイメージで。こうやってアイシャドーブラシで、左右に上にぼかしていきます」
お客様の悩みに耳を傾けながら、香帆ちゃんがメイクを施してゆく。

「わあ、すごい、目がぱっちりしてる!」

鏡をのぞく女性の顔がぱっと明るくなり、瞳が輝きはじめる。これがメイクの魔法だ。

わたしは白シャツに黒のパンツというごくシンプルな格好で、スタッフカードを首からかけて、メイクアップアーティスト香帆の臨時アシスタントになった。
ブースの後ろで、コットンに化粧水をひたしたり、香帆ちゃんが求める道具を差し出したり、スチーマーの水を補充したり、できる限りのサポートをした。

どのお客様も、香帆ちゃんが使用したアイテムの半分以上を購入してくれている。
売り上げも評価につながるシビアな世界だから、文句なしの結果を出しているはずだ。
誰もが来たときよりも生き生きとした表情で帰っていくのを目にして、わたしも本当に嬉しかった。
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