【完結】その口止め料は高すぎますっ
熱く激しく求められる。
息苦しさに薄く目を開けると、彼の渇仰するような瞳に出会う。

その瞳の奥に、くちづけの先にあるものを感じとり反射的に身体がこわばる。

そんなわたしの反応を、彼もまた感じとる。

自らの腕を振りほどくように、直斗さんがわたしから離れた。

直斗さん…

すまない、と直前までわたしと合わせていたくちびるが告げる。こぶしがなにかを堪えるように握られていた。

謝罪されるようなことはしていない、と伝えたいけどしびれるくちびるは、言葉を紡げない。

彼が背を向けてキッチンを去ってゆく。
その背に向かって指を伸ばしたくなる気持ちを、懸命に押し留める。

今夜はもう一緒にコーヒーを飲むことはないだろうと、それだけは分かった。
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