【完結】その口止め料は高すぎますっ


よく眠れなかった翌朝は、メイクののりがいまいちな気がする。
気のせいかもしれないけど、わたしにとってはちょっとした問題だ。

厚みのあるスポンジで、ファンデーションを丹念に叩き込む。今日はフェイスパウダーをパール入りのものにした。どうしても顔がくすんでしまっている気がして。
そのぶんチークはベージュでさらりと。アイシャドウもラメ無しを選んだ。

メイクは朝顔に乗せて、夜には落としてしまうものだけど、だからこそ毎日工夫ができて楽しくて。そしていつもわたしにちょっぴり自信を与えてくれる。友達みたいな存在だ。

メイクの魔法で寝不足気味の顔も明るくなって、つられて気持ちも上向きになってくる。


一夜明けて顔を合わせると、直斗さんはもういつもの彼だった。
わたしたちは何事もなかったように一緒に朝食を食べて、会社に向かった。

きっと、大丈夫。自分に言い聞かせる。
こうやってやり過ごしていけるはず。偽りの婚約関係を。
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