【完結】その口止め料は高すぎますっ
冷蔵庫のドアを開けると、何本か常備しているペリエの瓶が並んでいる。
蓋を下にして、逆さに立ててある一本があった。

これも直斗さんから教わったこと。一度口を開けたペリエは、蓋をぎゅっと閉めて逆さにしまう。
こうするとガスが上に溜まるので気が抜けないのだとか。

ガラスのコップに氷を一つ二つ入れて、ペリエを注ぎながら思う。
わたしはこの先、直斗さんと別れてひとりの暮らしに戻っても、ペリエを飲むだろう。この味を覚えてしまったから。

自分の小さな冷蔵庫に飲みかけのボトルを逆さに立てて。

それがひとと巡り会うということ、好きになるということなんだ。

別れても———彼がわたしの人生から消えることは、けしてない。

無理と分かっていても、それでも思わずにはいられない。
いっそきれいに消えてくれれば楽なのに。いま手元でシュワシュワと音をたてているこの泡のように。
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