【完結】その口止め料は高すぎますっ
「直斗がほとんど食べちゃうかもしれないけど」とお母様が茶目っ気たっぷりに口にする。
「昔っからここのお菓子には目がないの。わたしがお菓子を作っても、申し訳ていどにつまむだけなのにね」

南麻布にある、ずっと贔屓にしていたお店のケーキだという。クラシックなフランスの焼き菓子の名店だったけれどシェフが高齢になり、数年前に惜しまれつつ閉店。
とはいえシェフはオーブンを自宅に移し、馴染みの顧客の注文を受けたり、お菓子教室の講師をしたりと、マイペースにお菓子作りを続けているという。
時間と量産に追われなくなった分、さらに味は上がっているくらいだとか。

素敵だな、と素直に感じいってしまう。
馴染みのお店と、閉店した後まで付き合いが続いているなんて、ご両親の人柄が伝わってくる。
その証が、この特別に焼いてもらったケーキだ。早くも食べるのが楽しみになってきた。

「長男の結婚式の引き出物にも、これをお願いしたの」

途端に手にした包みがずしりと重みを増す。
どうしよう、きっと表情にも戸惑いが出てしまったはずだ。
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