【完結】その口止め料は高すぎますっ
やっぱり来てるのか、当たり前だけど。
溝口先輩。

いたね、と春海がささやく。

「うん…」
こうして周りに気を遣わせてしまうことがやりきれない。

別れて以来顔を合わせることもなく、一学年上の彼は、ほどなく卒業していった。もうなんの関係もない相手なのに。

未練なんてもちろんない。かといって屈託無く挨拶できるほど割り切れてもいない。
苦い記憶は、いまだに尾を引いている。そんな中途半端な状態だ。

向こうはどう思っているのか分からないけど、このまま素知らぬふりでやり過ごしたかった。

礼服に身を包んだ式場の係が現れて、ひとの視線が自然とそちらに集まったところで、挙式場への案内が告げられた。

いつもながらチャペルでは厳かな心持ちになり、披露宴では自分まで華やいだ心地になるから不思議だ。
いつかわたしも…なんて思わなくもないけど、相手さえいない状況では妄想も具体的にならない。
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