【完結】その口止め料は高すぎますっ
溝口先輩は、といえば新郎側の友人なのでテーブルが離れているのが幸いだった。

わたしが座るテーブルはひな壇に近い前の方で、彼に背中を向けていられたけれど、向こうからはわたしの姿が視界に入るような配置だった。
「こっち見てるよ」と憮然と晴海が伝えてくれる。

嫌だな、と正直に思う。
嫌悪感。かつては大好きだったひとに、そう感じることが悲しい。莉子と坂本先輩みたいにはなれなかった、とひな壇に座っている幸せいっぱいのふたりを見つめる。

不意にひとりの男性の姿が脳裏に射しこむ。
どうして急に———直斗さんのことを思い出すんだろう。いちばん夢見てはいけない相手なのに。
今朝『送っていこうか』と言ってくれて、本当に本当に嬉しかった。

喜びに包まれてひな壇に並ぶふたりの姿、チクチクと背中に感じる視線、わたしを見つめる直斗さんの涼やかなまなざし。そんなあれこれが頭の中を入り乱れて、披露宴の後半はどこか気が散ってしまったのが残念だった。
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