幼なじみの彼とわたし
「そんなに泣くほど辛いことがあったの?失恋って…、本当?」

言い終わった瞬間に、亜衣の表情筋が機能停止したのが読み取れた。
そしてまた、右目から涙が一粒こぼれ落ちる。


「あぁ、ごめんごめん。泣くなって。せっかく泣き止んでたのに。亜衣に泣かれると、ほんとどうしていいかわかんないんだよ」

まさか、また泣くとは思わないだろ。

慌てて両手で亜衣の頬をはさみ、左手の親指でこぼれ落ちた涙を拭ってやる。
そうすると、今度は左目からも涙がこぼれてくるから、今度は右手の親指で拭う。

亜衣は俯いたままだ。


「亜衣?」

顔を覗きこむように名前を呼ぶ。


「じゃあ、ぎゅーって、してて」

「…は?」


“ぎゅーってしてて”って今言った?
亜衣が?
聞き間違いか?


「わたしが、泣いてる、ときは、ぎゅーって、して、て」


聞き間違いじゃなかった。
でも、亜衣には他に好きなやつがいるんだろ?
こんなに泣き疲れるほど泣けるような相手が。
俺の“ぎゅー”でいいのか?
俺はそいつの代わりなのか?


聞きたいことはたくさんあるが、聞ける状況ではないよな。
ってか、“泣いてたらぎゅーってしてて”って、かわいすぎだろ。

それならいくらでもするよ。


「あ、う、うん…」

本当は距離感0になるまで、隙間がなくなるまでぎゅーっとしてあげたいけど、へんな躊躇いも出てきて、さっきよりは強く、でもふわっと手をまわす。


「亜衣、ごめんな…」

泣かしたいわけじゃないんだけどな。
また目を閉じつつある亜衣にむけて呟く。

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