幼なじみの彼とわたし
「誰かの顔でも浮かんだ?」

「え?あ、あの…」


何か言わないとと思うのに、なにも言葉が出てこない。
告白されてもないのに、謝るのは違うと思うし。。。

千尋を見るとニコニコしながらわたしを見ていた。


「うん。でも、彼、本当に幼なじみで。その恋愛対象としては…」


長年幼なじみと思ってきた相手だ。
好きだし近くにいるのは心地よい。
最近ドキッとすることが増えてきたけど恋愛対象としては違う気もする。


「“ただの”幼なじみのために、就職先を同じにしたり、いつもごはんを作ったり。なかなかそこまでできないと思うよ。“ただの”幼なじみならね」

「…え」

藤木さんは、“ただの”を強調して話してくる。

わたしは答えに困ってしまい俯いてしまう。

どうしよう、何かしゃべらないと、沈黙が続いてしまうな、なんて思っていると、明るい声が聞こえてきた。


「ちょっと待って。俺、告白する前にフラれたみたいな感じになってるじゃん!藤木ー!!」


森田さんだ。
ちょっと重くなった空気がガラッと変わった感じがした。
こういうところ、気を遣ってくれて優しいなと思う。
正直、ほんと助かった。


「でも、狙ってたでしょ?早いうちにわかってよかったんじゃね?森田も」

「あ、いえ、あの。森田さん。ちゃんといい人だと思ってますよ?」


フォローのつもりが「それ、フォローになってないからね。逆だから」と藤木さんは笑っている。
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