お前が好きだなんて俺はバカだな
次の日。

なんだか、先輩に避けられている気がする。

朝、会って挨拶したときも、素っ気ない感じだった。

廊下ですれ違ったときも、急いでいるからと言って、すぐに通り過ぎてしまう。

いつもなら、時間ギリギリまで立ち話とかするのに。

やっぱり、私に詮索されている気がして、嫌なのかな。

そんな風にモヤモヤして迎えた昼休み。

先輩を探して学校中歩き回るけど、姿が見当たらない。

メールをしても、また既読がつかない...。

電話をしても、出ない。

不安が募っていく。

また職員室とかにいるのかな。

それとも...。

たまたま自習室の前を通りかかったので、少し開けて中を見てみた。

すると、

「まあ、そんなに落ち込まないで。
美礼くんらしくないよ。」

東條イルマの声...。

先輩がいるの...?

どうやら、区切られた席がある向こう側に、先輩たちがいるらしい。

「何があったか話してごらんよ。
君は秘密主義すぎるから。」

「...。」

「ほら、もう泣かないで美礼くん。」

え...?

「別に泣いてない。」

「じゃあ顔あげてお話ししようよ。」

「そういう気分でもない。放っておいてくれないか。」

「そういうわけにもいかないよ。
僕は美礼くんの友達だからね。」

「...うざっ...。」

「あはは。辛辣だね。
でも、やっぱり元気ないよ?」

「お前には関係ない。」

「ああ、分かってるよ。
だからこそ君とお話ししたい。」

「あっちへいけ。」

「こんなどうでもいい奴だからこそ話せば変わることもあるよ。
秘密は守るからさ。」

「...うるさい。」

「僕が一度言ったら折れるまできかないの、知ってるでしょ?」

「...。」

「よしよしいい子だね。
言葉にするの難しいなら、ここに書いてもいいよ。」

「...ばか。」

「美礼くんは素直だね。大好きだよ。」

「気持ち悪。」

「美礼くんのおかげだよ。」

「...ばーか。」

...。

どんな方法で伝えてるのか、分からないけど、

「...それは...ほんと...
辛いね。」

先輩は、やっぱり悩んでるんだ...。

「君は悪くないよ。
何にも悪いこと、してないじゃないか。」

「何も、できなかった。」

「美礼くん...。」

先輩の弱々しい声...。

「美礼くん...僕はね。」

「...。」

「今の美礼くんは、僕の言葉が嫌に思うかもしれないけど、美礼くんは、とっても素敵な人だよ。」

「...。」

「今まで1人で抱え込んで辛かったよね。」

「...違う。
逃げたのは俺だ。」

「美礼くん...。」

「俺は、家族を...。」

「自分を責めないで。」

家族...。

なんとなくだけど、先輩の気持ちが、分かってしまった...。

それは、確かに
言えるわけない...。

胸が締め付けられる思いだった。

きっと先輩は、こんなものじゃないんだ...。

後悔した。

聞かなければよかった。

まだ、知らないまま、無神経に先輩を疑っているような自分でいたほうが、まだマシだった。

ごめんなさい...。

私は、そっと部屋を出た。

これから私は、先輩にどんな顔をすればいいんだろう...。

下手に慰めるなんて、そんなこと、絶対にしてはいけない...。

それに、先輩が話せないのは、私のこともあるから...。

私が、1度、家族を失っているから...。

私を悲しませたくないから、先輩は...。
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