お前が好きだなんて俺はバカだな
ヒガシは少し背伸びしたと思ったら、
「!」
先輩の襟を掴んでいた。
これって、喧嘩とかの...??
流石に止めた方がいいのかな...。
でも、思ったように体が緊張して動かない。
「もし、さっき言ったのがこういう意味だったらって。そうしたら、美礼さんのこと、許せなくなった。」
自分の弟とは思えないほどの低い声に、体に針金を通されたような気分になる。
何が起こってるの...?
「こういう意味っていうのはね。分かってると思うけど。姉ちゃんを傷つけるってことだからね。」
「...。」
「これ以降、好きでもなんでもないのに、ゆい姉さんに手を出したりしたら、俺はあんたのこと、一生許せないから。」
...。
ヒガシ...?
一瞬、時が止まったようだった。
その息苦しい静寂は、先輩の口元が緩んだことで、破られた。
先輩はゆっくりと弟の手を振り解いた。
おそらく、そんなに力はかかってなかったんだと思う。
「...認めたら、負けだと思ってさ。」
「え?」
先輩がぽつりとこぼした言葉に、私もヒガシも呆気にとられて同じような反応をする。
「とりあえず、さっきのこと、謝らせてくれ。
ごめんなさい。」
せ、先輩が謝ってる...!!
こんな貴重な先輩、後にして思えば動画にでも残しておけば良かったのにって思うくらいだ。
「まあ、分かってくれれば、それでいいんだけど...。」
「でも、いじわるはやめられないかな。
結野は面白いから。」
おいおい。
全部聞こえてるからな、先輩。
ヒガシもなんか楽しそうに笑っている。
今のやり取りは一体なんだったんだ...?
また、昨日みたいに頭がぐるぐる回ってる感じ。
ただ、
「姉ちゃん(結野)のこと、好きなんだな。」
「まあね、たまに怒ると怖いけど優しいし、僕もイツキも、姉ちゃんのこと、大好きだよ。」
って、笑顔で言われたのは、ちょっと、嬉しい。
ヒガシも可愛いところあるんじゃん...!
それを私の前で直接言ってくれればいいのに。