お前が好きだなんて俺はバカだな
「それで...お話って?」

「美礼くん、しばらく仕事休んだ方がいいかもって思うんだ。」

「どうしてそう思ったんですか...?」

「実は、僕が彼を食事に誘った理由なんだけど。
...やっぱり様子がおかしくて。」

「様子...?」

「今日も車じゃなかったし、踏切の前にいて...。」

「踏切の前?」

「随分長いこと立っていてさ。」

「考えごと...してたんですかね...?」

「うん...。僕...怖くなって。明らかにいつも気張ってる美礼くんじゃなかったから。
前に君と見たときも同じような感じだったけど、今回は、警笛が鳴ったのに、前に...。」

「なんでそんな...だって...そんなことする理由...。」

「僕だってそうじゃないって思いたいけど、さっき...部屋でも...。」

「部屋に...何があったんですか...?」

「...。」

目の前の彼は何も言わなかった。

いや、言えるわけない。

思えば、あの時の間違い電話のときも様子がおかしかった。

それに、私を振った彼は淡々としていたけど、それでも、気になるところがないわけでは...。

「なんとか、もう強引にききだそうと思って、食事誘ったんだ。ごめん。こんなことして本当に...。」

「いえ...お気持ちお察しします...。」

「あの食べ方も、美礼くんよくやるの?」

「いえ。私の前ではしませんでした。嫌なことがあるとよく、暴食するみたいです。」

「そうなんだ...。」

冷静に話を聞こうとする。

でも、もう心臓がバクバクしてる...。

「お酒に弱いっていうよりね、もう参ってるって感じだったよ。もう気力もそんなに残ってなかったんじゃないかな...。」

「...。」

「ごめん。」

「いえ。
何か、おっしゃってましたか...?」

「うん。...なんとかきいたよ。
知りたい...?」

「...。」

「ここまで言っといて躊躇うのもなんだけどね。」

「...今、先輩は?」

「朝まで眠ってもらってる。やっぱりちょっと強引なんだけどね。殴ったとかじゃないよ。飲み物に少しだけ細工を...。そうするしかないって...。
僕も冷静じゃなかった。」

「そうですか...。」

「それで...どうする...?」

「...いいえ。苦しいとは思いますけど、先輩から直接話してもらいます。」

「美礼くんに?
それは...まだ...。」

「待ちます。先輩が落ち着くまで。
いつまでも。
だから、お願いします。これからもしばらく先輩の様子を見守ってくれませんか。」

「僕は元からそのつもりだよ。
なんたって、友だちだから。」

「ありがとうございます。」

「こちらこそ。
美礼くんのこと、よろしく。」

認めたくない一夜だったけど、彼のことにまた向き合っていこうと決心できた一夜でもあった。

やっぱり彼は、独りで抱えていることがあるって、分かったから。
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