お前が好きだなんて俺はバカだな
少し雨が降っていた。

彼が運転する車の助手席で、じっと座り、その横顔を見る。

...こんなときにいつもドキドキしちゃうわたしってなんなんだろう...。

今日仕事してるときも若干落ち着かなかった。

それまで、ずっと会えなくて寂しいって感じてたからかな...。

まるで、初恋したてみたいな、あの最初の胸が高鳴る感じが蘇ってきているように、
それより強くさえ感じられた。

わたしだけ...だよね。

彼はわたしのこと好きでいてくれてるけど、さすがにこんなに四六時中ドキドキしてるわけじゃないだろう。

仕事の時は上司と部下として、公然でいるときはそれらしくわたしに振る舞っているから。

私だって、人前では冷静でいようと頑張ってるけど、ちゃんとできてるかはわからない。

ましてや、車の中で彼と2人きりなんて...。

何度か経験してるはずなのに、ずっと苦しいくらいにドキドキして止まらない...。

特になぜか今日は...。

こんな気持ち、知られちゃったらまずいかな...。

純粋に好きでたまらなくなっちゃったなんて...。

だめ...じっとしてなきゃ...。

そう自分に言い聞かせるように小さくなって座っていたけど...。

横顔をちらちら見るの...とまらない。

目が合っちゃったらだめだっておもうのに...。

だめ...
ないちゃうくらい...愛おしい...。

情緒不安定すぎる...。

飛び出しそうな胸を押さえつけて、やっと家の前で車が止まった。

「ついたぞ。」

「...。」

「どうした?
具合悪いのか...?」

「いえ...。」

「顔赤い。熱あるかも...。」

「だ、だめです!
触っちゃ...わたし...。」

あ...ごめんなさい...。

意味わからないよね...?こんな...。

どうしよう...。

誤解...されちゃったら...。

...。

「ゆいの、こっちみて?」

「...。」

「ちゃんとみないと、キスするよ。」

「...みない...です...。」

「じゃ、目つむってて。」

「や...っ...。」

頬を手で撫でられる。

くすぐったくて、ドキドキしてもう...

破裂しちゃう...!

耐えられずに、わたしから引き寄せてしまった。

「ゆい...っん...。」

彼の声に興奮してるのがわかる...。

やだ...こんなわたし...。

それでも、唇が離れない...。

やがて、彼に強く押さえつけられてしまった。

もう...抵抗できない...。

こんなところ、誰かに見られちゃったら...。

そう思うほどに、なぜか気持ちが高まってしまう。

ああ、

こんなに自分って、いやらしいんだ...。

もういいかげん離れなきゃ...。

ううん...

もう、離れなくてもいいや...。

このまま、ひとつになってみたい...。

彼と...ひとつに...。

...。

惜しくもここで離れてしまった。

「...落ち着いた...?」

「まだだめです...。」

「だめ...?こまったな...。でもこんなとこじゃ...。」

「もう...おしまいですか...?」

「...。」

わたしから煽っちゃうなんて...。

でも、もっとくっつきたいんだもん...。

その意思に反するように、彼は自分の頭を叩いた。

「やばい、危うく完全に雰囲気に流されるとこだった。」

「みれいさん...?」

「そんな猫撫で声出しても無駄だ。
さっさと降りろ。」

「みれいさん...。」

「いいか、ここは車内だ。
周りの目に晒されてもおかしくない場所だ。」

「それでも...いいです...。」

「よくない。
あと数メートル、数秒我慢しろ。」

「いやです...。」

「もう置いていくからな。」

「いやぁ...。」

「なに幼児退行してんだよ。そんなやつは俺知らないぞ。」

「みれいさんのばかぁ...。」

「...あーもう泣くなよ。」

ほんとに情緒不安定だわたし...。

でも、

「...もういっかいだけだぞ。」

て言ってキスしてくれる美礼さんがほんとに好き。
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