カッコウ
「産むの?」


驚いて言うみどりに、
 
「産まない理由、ないでしょう。」

と孝明は優しく言う。
 
「だって私まだ就職していないし。結婚もしてないじゃない。」

産めない。孝明の子供だという確信がないのに。

もし茂樹の子供だったら大変なことになる。
 
「急いで入籍しよう。しばらくは大変だと思うけど、俺の収入でも生活はできるよ。」

孝明の優しい言葉がみどりの胸に刺さる。
 
「だって。私の就職は?住む所もないし。」

みどりの抵抗は徐々に弱くなる。

孝明を納得させるような言葉が浮かばない。
 
「特にやりたい仕事じゃないでしょう。子育てが落ち着いてから働けばいいよ。それに結婚すれば社宅に移れるから。大丈夫だよ、心配しなくても。」

孝明は何も知らないから。

みどりが産めないと思う本当の理由。
 
「孝ちゃんの親も反対するわ。」

みどりの声はだんだん弱くなっていく。

「俺の親より、みどりの親でしょう。でも子供がいるんだから。わかってくれるよ。俺もとうとうパパか。」

孝明は温かい目でみどりを見つめる。

みどりは涙を堪えることができない。

一筋流れた涙に、
 
「一人で心配していたの?馬鹿だな。二人の子供なのに。」

孝明はみどりの涙の理由を、半分しか理解していない。

『どうしよう。産みたい。孝明の子供かもしれないのに。』

みどりは手で顔を覆って、涙を流し続けた。

 


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