最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「もちろんだ。メレディアナ・ブラン『困った時はぶち壊せ』の破壊系魔女。この世にお前に並ぶ魔女はいないらしいな」

 まず紹介の前半部分だが、速やかに忘れてほしい。本来賛辞として心地良く聞こえるはずのそれも、相手によっては嫌味にしか聞こえないようだ。

「お前が勝てば従ってもいい」

 挑発的だが確固たる自信に溢れている。自らの勝利を疑いもしない。そんな態度で宣言している。気を抜けば相手に呑まれてしまうだろう。
 ただの人間が魔法のランプを手にして浮かれているなら簡単なこと。自信をへし折ればいい。けれどもし、そうでなかったとしたら? これが生まれ持っての資質だとしたら厄介だ。
 とはいえ気圧されて終わるメレではない。彼女も負け劣らぬほどの自信を持ち合わせていた。

「自信家なのね。いいわ。そこまで言うのなら、わたくしと貴方 (のランプ)、どちらが優れているか見せつけてさしあげる」

 互いの意見は初めて一致を見せていた。

「わたくしが勝てばそのランプ、大人しく返却なさい。その時は跪いて許しを請うのね」

「いいだろう。だが俺が勝てばランプの使用にとやかく言わせない。有り難く頂戴させてもらうぜ」

 互いに要求を突きつけ合う。
 どちらも引かず、睨みあって火花を散らす。
 彼らには自身の敗北など見えていないのだ。

「その条件、呑んであげる。わたくしにも魔女としてのプライドがあってよ。敗者となれば大人しく諦めましょう。ただし約束なさい。ランプに他人を害する願いを与えないと。それができなければ、わたくしには不毛だろうと戦争を起こす覚悟がある。条件を呑まなければ……命がけでランプを破壊することも厭わない」

 一度ランプを擦り主となった人間は無敵だ。願いに制限はなく、無尽蔵の奇跡を手に入れたことになる。まるで己が魔法使いになったように、使用者が放棄するまで主従関係は続く。
 主従関係を解約させる方法は大きく分けて三つ。

 一つ、持ち主からの譲渡。

 二つ、持ち主の死。

 そして最も強制的かつ強引な方法が――

 三つ、ランプを奪い契約の上書き。

 メレの言うように、取り返すよりも破壊する方が簡単だ。

(本当は壊したくないけれど!)

 しかし各方々から言われている通り、破壊はメレの得意分野である。しかし世紀の大発明を作って数日で破壊、しかも製作者未使用では涙が止まらない。

(だいたい、それでは困るのよ!)

 メレが万能の魔法具を生み出したのは目的があってのことである。
 同じものをつくるのにどれほどの歳月がかかるだろう。それも魔法の力が弱まり続けるこの世界で同じものを作り上げられる保証もない。
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