最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
 そこであろうことか彼はこう言った。

「いいぜ、なんなら今ここでランプに願ってやるよ」

 口だけなら何とでも言える。
 すぐに否定的なことを考えた。人間なんてみんなそうだと。
 けれど反論する暇は与えられなかった。

「他者を害する願いを与えたなら、お前は拒否しろ」

「かしこまりました」

(軽いっ!)

 ちょっとアレを取ってくれレベルの軽さである。さらに願われた方もあっさりと受諾してしまうのだ。
 これでランプが他人に危害を加えることはなくなった。危惧していた世界を滅ぼすことも一先ずは安心と言えるだろう。
 憂いが一つなくなったところで今度は新たな不安が芽生える。

「どういうつもり?」

 憂いが消えようと警戒心を解くべきではない。

「これが俺の誠意だ」

「驚いたわ……貴方、誠意という言葉を知っていたのね」

「おい、素で驚くな」

「これまでの発言をよくよく思い返すことね」

「信じるってのは難しいことだろ? それに俺から提案したことでもある。これくらいの条件は呑んでやるさ。そのためには譲歩も必要だろ」

「……その通りね」

 人間の手に渡れば欲望のままに行使されると思った。
 だからこそ急いで追いかけた。

 口先だけでなら何とでも言えると思った。
 でも、彼は違った。

 率直に言って見直した。不覚にも、なかなかの器だと感心させられしまった。たとえほんの少し見直したところで、わざわざ本人に教えてやるつもりはないけれど。

「メレ様」

 ランプの精が呼ぶ。主以外に様を付けるとは、一応製作者として敬っているのだろうか。

「貴方もわたくしの名を知っているのね」

「はい。そこの精霊友から聞きましたので」

 長く美しい精霊の指先はノネットが胸元に抱える手鏡を差していた。
 精霊友……まさか精霊友達の略!?

「いつのまに……」

「いやいや、彼気の良い精霊だよね」

 カガミなんてケラケラと笑っている。

「貴方向こうの肩を持つつもり?」

「それは言いがかりというものだよ。それとこれとは話が、あっ――!」

 話が逸れる前に鏡を閉ざす。たとえ精霊同士が仲良くしていようが知ったことか。
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