最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「それで、どう決着をつるのかしら。物理的に白黒つけるのなら少し時間をいただける? わたくし穏便に事を済ませる体で訪れているの。このドレスは脱いでくるわ」

「脱いでどうする。誘惑か?」

「馬鹿にしないで。決まっているでしょう?」

 メレの瞳はそんなことも分からないのかと訴えている。
 ややあって美しく彩られた唇から発せられたのは、とても似つかわしくないものだった。

「動きやすくて破れても困らない服に着替えるのよ」

 それでも意味が解らないという顔が消えることはない。

「剣? 槍? それとも鎌? これでも腕っぷしだって自信はあるわ。拳でも可よ。なんでも受けて立ちましょう」

 片手で拳を作り、反対の掌で力強く受け止めて見せたのである。

「悪いがそういう野蛮なのは好みじゃない」

「野蛮で悪かったわね。ならどうするというのかしら?」

「そう急くな、少しくらい考えさせろよ。おあつらえ向きに俺の家は目の前だ。寄って行け、歓迎する」

 メレは盛大に顔を歪ませた。

「敵の家に? 何か盛るつもりじゃないでしょうね。おあいにく、わたくし研究の副産物で毒には強いのよ」

「勝負を取り付けた後で卑怯なことはしない。正々堂々、俺は約束を守る」

「どうだか」

 そっけなく言い放つも、約束をするに相応しい相手だとは認め始めていた。あくまで少しだけ!

「お前、誠意ある対応をしに来たって言ったろ。名義は俺だが、楽しみにしていたのは母と妹なんだ。頭を下げるべき相手は俺じゃない。違うか? オーナーのメレディアナ・ブラン殿」

 わざとらしくオーナーの部分を指摘する皮肉ようだが、効果は絶大で反論の余地もない。してやったりという表情が憎らしく、拳をお見舞いしてやりたいところだが悪いのは発送を誤った己であり、事実を言われては抗うわけにもいかず。メレの良心が、経営者としての誇りが敗北を認めさせた。

「……ノネット、先に帰っていなさい。日没までにわたくしが戻らなければ一斉攻撃を許可しておくわ」

 失敗した魔法薬、あれは苦い。尋常な味じゃなかった。何度も何度も苦渋の味見をしてきた。苦々しいというのはこういう事なのだと、メレは学ばされる。
 せめてもの脅しだが、面白いやってみろという表情を浮かべた相手にはあまり効果がなかったことだろう。
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