最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
こともなげにランプの精改めラーシェルは言う。女性なら蕩けてしまいそうな微笑を添えて。けれどそんな仕草もメレにとっては憎らしいものに変換されていく。
再度勝負について急かそうとすればどこからか声が聞こえていた。
「オルフェ、どこにいるの?」
おっとりとした女性の声だ。それもあまり声を張り上げることに慣れていない上品さを纏っている。
主人の目配せに一礼しラーシェルが部屋を出て行く。
「奥さま、こちらでございます」
「まあラーシェル、ありがとう。お客様かしら?」
この部屋へ通すつもりなのだろう。足音が近づいている。
ラーシェルが奥様と呼ぶ相手、さらに声音の雰囲気から察するに。
「母上、こちらは――」
メレは不要だとばかりにオルフェを遮り前に出た。
「お初にお目に掛かります。わたくし『賢者の瞳』にて代表を務めております、メレディアナ・ブランと申します。この度はご利用いただき誠にありがとうございます。どうか急な訪問をお許しください。実はこちらの不手際で誤った商品を発送してしまいました。誠に申し訳ございません。謝罪をしたく赴いた次第です」
「まあ!」
怒鳴られることも想定していたメレの耳に飛び込んだのは歓喜の声である。顔を上げれば女性は花が咲いたように顔を綻ばせ、その拍子に金色の髪が揺れた。
「間違い? ということは、もう届いているのね! オルフェったら、そういうことは早く教えなさい」
「すみません」
和やかな親子の会話にメレだけが追いつけていない。
「メレディアナ様、謝罪など不要です。わたくし荷物のことは今知ったばかりですもの、気に病まれる必要はございません。それよりも都合がよろしければ、ご一緒にお茶でもいかかでしょう。せっかくお越しくださったのですから、ゆっくりなさってください」
憎い対戦相手の母親とはいえ、こちらに非があるので断りにくい。それがお得意様であれば尚更だ。
「そうしてやってくれないか? 例のことはその間に考えておく」
男性陣は早々に退散し、なんだか見捨てられたような気分だ。とはいえ顧客を無下には出来まい。打算のない笑顔で誘われてしまえばなおさら断りにくいもので、メレは宿敵の母親とテーブルを囲むことになってしまった。
再度勝負について急かそうとすればどこからか声が聞こえていた。
「オルフェ、どこにいるの?」
おっとりとした女性の声だ。それもあまり声を張り上げることに慣れていない上品さを纏っている。
主人の目配せに一礼しラーシェルが部屋を出て行く。
「奥さま、こちらでございます」
「まあラーシェル、ありがとう。お客様かしら?」
この部屋へ通すつもりなのだろう。足音が近づいている。
ラーシェルが奥様と呼ぶ相手、さらに声音の雰囲気から察するに。
「母上、こちらは――」
メレは不要だとばかりにオルフェを遮り前に出た。
「お初にお目に掛かります。わたくし『賢者の瞳』にて代表を務めております、メレディアナ・ブランと申します。この度はご利用いただき誠にありがとうございます。どうか急な訪問をお許しください。実はこちらの不手際で誤った商品を発送してしまいました。誠に申し訳ございません。謝罪をしたく赴いた次第です」
「まあ!」
怒鳴られることも想定していたメレの耳に飛び込んだのは歓喜の声である。顔を上げれば女性は花が咲いたように顔を綻ばせ、その拍子に金色の髪が揺れた。
「間違い? ということは、もう届いているのね! オルフェったら、そういうことは早く教えなさい」
「すみません」
和やかな親子の会話にメレだけが追いつけていない。
「メレディアナ様、謝罪など不要です。わたくし荷物のことは今知ったばかりですもの、気に病まれる必要はございません。それよりも都合がよろしければ、ご一緒にお茶でもいかかでしょう。せっかくお越しくださったのですから、ゆっくりなさってください」
憎い対戦相手の母親とはいえ、こちらに非があるので断りにくい。それがお得意様であれば尚更だ。
「そうしてやってくれないか? 例のことはその間に考えておく」
男性陣は早々に退散し、なんだか見捨てられたような気分だ。とはいえ顧客を無下には出来まい。打算のない笑顔で誘われてしまえばなおさら断りにくいもので、メレは宿敵の母親とテーブルを囲むことになってしまった。