最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「案外が付く時点で気に入らないわね。話を戻しなさい」

「いいぜ。テーマは、そうだな……。カティナとも話していたが、お前菓子作りが得意なのか?」

「得意と豪語するほど大袈裟ではないけれど、貴方よりは優れているはずよ。かつて王族の生誕祝いにメインのケーキを納品したことがある、とだけ言っておくわ」

「へえ、そうまで言うなら披露してもらおうか」

 メレは耳を疑った。確かに『勝てる』と宣言したつもりだ。しかも王室御用達とまで付属して。

「エイベラの地鶏が産む卵は良質だぜ。これを生かした菓子を作り、互いの舌を納得させた方の勝ち。食材の持ち込みは各々の自由、場所は我が家の厨房、無論人払いはしておく。どうだ? 血を見ずに済むシンプルな対決も良いだろう」

 一体どれだけ血なまぐさいと思われているのか疑問が残る。

「異論はないけれど、負けて泣かれても困るわよ?」

「それは楽しみだ。明日十時にまた来い。案内しよう」

「は!? 意味がわからないのはわたくしだけ?」

 対決の日時ではなく何の集合時間だ。

「お前も材料を調達するだろ? 不慣れだろうから市場を案内してやる」

「ご親切に感謝して、心から遠慮させていただくわ。買い物くらい一人で出来てよ。何より貴方と出かけるなんてごめんだわ」

「いいのか? 俺は領主、色々と融通が利くぜ。対決は料理で、なら材料選びの段階はあくまで公平にしたいと思っただけだ。負けた時の言い訳にされても困るだろ」

 メレは融通の意味を正確に汲み取った。例えば安く買うことも、良い品を流してもらうことも可能である。

「……いいわ」

 苦渋の決断だった。
 了承してしまえば悔しさは捨てるのみ。後はせいぜい利用してやろうと画策するメレは大人びた魔女の顔へと変貌していた。どんな勝負にだって負けはしない。

「決まりだな。明日、十時に」

「仕方ないわね。癪だけれど、本当に! お茶に招かれただけでこんなに疲れるなんて初めてよ、まったく……。フィリア様とカティナ様によろしく伝えてくださるかしら。ここで失礼させていただくわ。カガミを使って帰るから上手く誤魔化しておいて。あと、そこの鏡を借りるわ」

 ドア付近の壁に取り付けられた鏡を示す。手鏡は所持しているがこれを使えば手鏡自体が残ってしまうので手近なイヴァン家の鏡を借りるのが妥当だ。
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