最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「……アレがないのよ」

「アレ? ええと、あまり言い淀まれると、ちょっと不安を煽られるんですが」

「だから、ちょっとした手違いというか、発送ミスというか……」

 その単語に憶えのあるノネットはさっさと吐けという眼差しを切り上げ「ああ!」と手を打った。

「もしかして昨日の出荷のことですか? 確か化粧水に魔法薬、久しぶりに大口大量の注文でしたよね! 液体と瓶の詰め合わせってホント重くて。僕も何度腰が折れることを覚悟したか」

 メレの営む商会は通信販売も行っている。メレの生成する化粧水に魔法薬は人間及び魔女に人気を博していた。
 昨日はノネットの言う通り大量注文が入ったのである。無事に梱包作業を終え、発送担当の使い魔たちに引き渡したのが昨夜のことだ。

「そう、それ……。ええ、それよね。やっぱり、どう考えてもそれしか……」

 ノネットは一仕事終えた達成感から満足そうに腰を伸ばしているが、メレは尚も頭を抱えていた。

「アレが人間の手に渡ったら世界の終わり……。わたくしが天才すぎるばかりに世界終焉の引き金を引いてしまうなんて……」

「メレ様? メレ様~? 帰ってきてくださーい。僕を筆頭に皆さんそろそろ焦れて来た頃ですし、そろそろ思い切って詳細発表しちゃいませんか?」

 皆って誰かしら……

 そんな疑問を抱きながらもメレは覚悟を決めさせられた。ノネットの言う通りだ。先延ばしにしても現実は変わらない。

「だからっ、魔法のランプがないのよ! 荷物に紛れて発送してしまったかもしれないの!」

 興奮で頬を赤くするメレとは対照的にノネットはみるみる青ざめていく。

「ちょ、ま、魔法のランプってあの、メレ様が最高傑作と豪語して回っていたあの? ランプの精がなんでも願いを叶えてくれるという便利すぎる、あの魔法具のことですか!?」

簡潔かつ丁寧な説明に感謝する。けれど足りない部分があるため補足しておこう。

「そうよ。天才かつ最強の魔女であるこのわたくし、メレディアナ・ブランの最高傑作にして世界の秘宝(予定)魔法のランプよ!」

「は、早く! 宅配業者追いかけたほうが!」

 補足をさらりと流してノネットはそれっぽい方角を指差す。じっとしてはいられなかったのだろう。しかしメレは力なく笑うだけだ。
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