最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
 スミレ色のドレスにハイヒールは大人っぽい印象を与える。レースとフリルで可愛らしさも忘れずに、己の魅力を最大限に生かしたドレスでメレは三度イヴァン家を訪れた。世間一般のそれとは少しズレるが、ある意味勝負服であり気合いも入る。
 色素の薄い髪を惜し気もなくなびかせ、颯爽と歩く姿は街中でも注目を集めた。この完璧な仕様も、向かうべき場所が宿敵の元であることが残念だ。

「よく来たな」

 余裕たっぷりな表情で出迎えるオルフェといったら、さながら悪魔が降臨したようだ。

「ごきげんよう」 

 対してこちらも魔女。悪魔相手だろうと怯みはしない。

「材料はどうした?」

「焦らなくてもじきに届くわ」

 きっかり十分前行動を果たしたメレもまた余裕の表情で挑む。食材の到着が遅れているにもかかわらず、己の使い魔を信じて疑わない。

「いいだろう、厨房へ案内する」

 一階の最奥にある厨房は使用人の領域。そのはずなのだが……

(やけに手馴れている? いいえ、馴染みがあるという雰囲気かしら?)

 開始時間まで三分を切った。
 今回はオルフェも沈黙に徹してくれる。時折調理器具をいじる姿は料理をする必要がない貴族、ましてや男にしては手慣れていた。
 メレの疑問が解消される前に手の中で鏡が震える。そんなことよりも勝負に集中しろと言われているようだった。

「信じていたわ。お帰りなさい」

「た、ただいま、です」

 満身創痍のノネットは背負ったリックを置いて静かに倒れた。

「お疲れ様。貴女の奮闘、決して無駄にしないわ。疲れたでしょう、ゆっくりしていなさい。そこでわたくしの勝利を目に焼き付けるといいわ」

 ――と、労ったはずなのだが。
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