最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「それでは実況は僕ことノネットで進行させていただきます! よろしいですか、オルフェ様?」

「ああ、構わないぞ」

 司会進行に徹しているノネットを前に、メレは二重で呆れていた。

「貴女疲労で倒れていなかった? それに、随分と仲がよろしいのね」

「え? だってオルフェ様、悪い人じゃないですもん!」

 いつのまに愛称で呼ぶ仲になったのか詳しく聞きたい。
 メレとて悪い人間ではないことくらい認めているが。素直に認めたくないこともあるのだ。

「……性格は悪い」

「まあまあ」

 苦し紛れに呟けば本人になだめられる。

「だから貴方のことで……。まあいいわ。そんなことより調理が大事ですもの!」

 咳払いで無理やり気持ちを切り替えたところ、絶妙な間合いでノネットの実況が始まった。

「まずは我が主こと、魔女メレディアナ・ブラン! フルネームは長いので省略させていただきますのターン! それでは意気込みをどうぞ」

 ノネットのテンションに色々と言いたいことはあるが、まずは勝負、まずは勝負……

「勝つのはわたくしよ。厨房の妖精と謳われた実力、見せてさしあげる。光栄に思うことね」

「さすが貫録の勝利宣言いただきました!」

 ノネットはくるりと体の向きを変えた。

「対するは伯爵家当主オルフェリゼ・イヴァン十九歳!」

「はあ!?」

 軽やかな紹介文に絶句する。

「ん、どうした?」

 露骨な動揺にオルフェが反応を示せば、メレは呆然とその視線を見つめ返す。

「あ、貴方……十代?」

 メレディアナ・ブラン現在 ピィ―― 歳は釈然としなかった。急にオルフェが眩しい存在のように感じられた。もちろん最初から歳下の部類に入るとは思っていたが、まさかの十代!? あれだけ不遜な態度をとっておきながら!?

「俺が大人びているという話か? これでも伯家当主だからな、よく言われるよ」

「いえ、そういうことでは……」

「はーい、それではお二人とも準備をお願いします」

 モヤッとした感情を無理やり呑み込まされる。驚きなど無視した滞りのない進行であった。
 どうやら材料と向かいあう他ないようだ。

 厨房がまるで王宮の一室にさえ感じてしまうほどの輝きを放つ。メレはその場でステップを踏み、軽く一回りするとドレスは塗り替えられたように姿形を変えた。
 メイドが着るような深い紺を基調にしたエプロンドレスだ。髪は一纏めに結われ早変わりを披露する。
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