最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「へえ、気合い入ってるな」

「形から入る主義なの」

 すると今度はオルフェがジャケットを脱ぎ捨てた。流れるような動作で受け取ってみせるのはラーシェルである。

「ラーシェル」

「かしこまりました」

 彼が長い指を鳴らせばオルフェの姿が塗り替えられていく。真っ白なシェフに早変わりし、コック帽まで装着は完璧だった。

「奇遇だな。俺も形から入る主義でね」

 まるで見せつけのような行動。目の前で行われた変身、もとい早着替えに瞠目する。魔法の巧みさにではない。オルフェが着替えている件についてだ。

「まさか貴方が作るの?」

 男で、しかも伯爵なのに料理が出来るのか。メレの疑問は尤もである。

「これは俺の手で作りたい。こいつはまだ料理加減というものに不慣れでな」

「そうなのです。料理のような繊細な作業、人の好みは測りかねまして。ああ、もちろん完成品を一瞬で披露することならお任せください」

 今回の勝負は調理から。となればラーシェルには不向きかもしれない。それにしても代打がオルフェというのは驚かされる。せめてカティナに頼んだ方が良いのでは?

「こいつには食材集めに奔走してもらった。ここからは俺の仕事だ」

 なるほど自分と同じ用件でランプを駆使していたらしい。

「お二人とも、試合前から気合い十分なようで! 視線バチバチ、熱いですねー。ではここに魔法のランプ争奪戦、料理対決開始!」

 ノネットの宣言によって落とされた火蓋――
 メレは力強い一発で両手を合わせる。

「皆、仕事よ!」

 呼びかけに応えるように調理器具が震えた。
 鍋は一人で動き出し火の上へと移動する。ノネットが届けてくれた果物たちは自ら進んで水に打たれ全身を綺麗に磨いていく。
 全てが魔法にかけられ余計な動きは一切しない。厨房の妖精の二つ名は伊達じゃない。
 加えて形どころかメレの動きは素人ではなかった。包丁を持てば限りなく薄く皮をむき、目にも止まらぬ速さで均等に刻む。一度鍋を握れば手足のように扱ってみせた。
 一際目を引いたのは魔法にかけられた泡立て器だ。

「出ましたメレ様の必殺技! 目にも止まらぬ泡だて器の回転。人間が回せるスピードを優に越えています。これにより卵の美味さが引き立てられ、より美味しい何かが仕上がる――とか前にメレ様が言ってました!」

「すごいな」

 隣のオルフェからも感嘆の声が漏れるほどだ。
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