最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「貴方どうしたらっ――!」

 メレはとっさに口を抑えこむ。

 どうやって? どうしてこんなことが出来たの?

みっともなく声に出すところだった。それを口にすれば勝負だけでなく魔女としても負けたことになるだろう。

「わたくしの負けよ」

 完敗だ。あくまで今回の勝負は。魔女としての敗北を認めることがあるとするのなら、それはランプを諦める瞬間だ。

「へえ、潔いんだな。てっきり――」

 強気な瞳は自尊心が高そうに見えるらしい。だが商会の代表を務めるメレは傲慢ではない。己の立場は常にわきまえている。

「敗北を認められないほど愚かではないの」

 それはまるで我儘な子どもだ。たとえ屈辱的でもメレは愚かではない。こうして素直に敗北の屈辱を噛みしめることが出来る。
 人間相手だからとどこかで侮っていた。見た目だけ豪華なケーキを用意した自分が恥ずかしいとさえ思える。

「それから……パンケーキに罪はないわ。最後まで食べさせなさい」

「ご自由に」

 強気な発言で取り繕おうと好物なのは既に見透かされているわけで。してやったりという作り主の視線が痛い。ナイフに力が入るもマナー違反を犯すわけにもいかずやるせなかった。

 食べ終えるとナイフとフォークをそろえて皿に置き、最後にナプキンで口元を拭う。

「ご馳走様」

「全部食べてくれるとはな」

「何か問題でも?」

 不機嫌全開で言った。実際、勝負に負けたことから感心させられたことまで、何から何まで不機嫌だ。

「いや、素直に嬉しかったぜ。ありがとな!」

 だからそんな屈託のない表情で感謝を告げないでほしい。ランプを使う才能に、みっともなく嫉妬していた自分がよけい惨めになる。

「空腹だっただけよ。貴方も、全部食べてくれたのね」

 審査用にとオルフェへ切り分けた皿にはクリームすら残っていない。

「上手かったからな。残りは屋敷の者に分けても構わないか?」

「それは、構わないけれど……。褒め言葉は素直に受け取っておくわ。ありがとう」

 けれど明らかに負かされたのはメレである。オルフェの美味いはただの感想でも、メレの美味いは感動なのだから。

(だからって、このまま終わったりしないわ!)

 たとえ勝負で一度負けても、魔女として二度と負けるわけにはいかない。慢心を捨て全力で叩き潰すことを新たに誓った。
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