最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「イエス、メレ様! でもタキシード、ですか?」
「ええ。さっそくパートナーを叩き起こしてくるわ」
おそらく大仕事になるであろう厄介な家主に悪態をつく。ようやくノネットは誰のためのタキシードであるか理解する。
「でもキース様、寝てるんじゃ」
「寝ていない時間を探すほうが大変よ。直射日光作戦でいく」
彼は訪ねてこのかた部屋から一歩も外へ出ていない。安穏と眠りに着いている。メレの任務は彼の眠りを妨げることにある。
「……メレ様、ファイトです」
確かにと、一瞬だけ優しさを見せたノネットもすぐに掌を返した。
誰も見ていないのをいいことにメレは廊下を大股で歩く。淑やかに振る舞ってやろうという気持ちすらおこらない。
「キース! キース・ナイトベレア!」
これだけ騒がしくしておきながら一向に出向こうとしない住人に腹が立ち始めていた。あの中は防音も完璧か。せめてものたしなみにノックはしたが、返事があるなど期待はせず躊躇いもなく私室へ踏み込んだ。
「キース、いい加減になさい!」
標的の名を呼んでカーテンを引く。これで出てきてくれればいいのに、そう楽な相手ではない。
部屋の中心に忽然と置かれている黒い棺、ようするに棺桶。その蓋を力任せに持ち上げてやる。部屋は埃っぽいというのに棺桶だけは艶が良く、まるで鏡のようだ。
「え……」
その中で眠りについていた人物と目が合う。起き抜けに何が起こったのか、赤い瞳は把握しきれていない様子だ。
「ぎゃああああああ!」
一拍置いて事態を悟る。日光を浴びせられたキースは顔を覆い悶え苦しんだ。
「と、溶けるううううう」
絶叫しながら足元の方に丸まっていた毛布を手繰り寄せるが、メレも負けじと毛布を引っ張った。
「何を言っているの、溶けるわけがないでしょう。このわたくしが体質を改善してやったのに、寝ぼけるのも大概になさい!」
必死の叫びにもメレは冷静そのものだ。
ようやく光になれたころ、毛布の下から赤い瞳がちらりと顔を出す。
「へ? ええ? メ、メレディアナ、なんで……これ夢?」
ぼそぼそと歯切れが悪く、あれだけ絶叫しておきながら別人のようだ。
「夢に見るほど焦がれてくれてありがとう。良かったわね、これは現実よ」
「へっ?」
「随分前からお邪魔しているわ。とっとと起きなさい。そしてわたくしに協力するの」
「は、え? えっと……」
矢継ぎ早に告げられキースは目を白黒させている。
「ええ。さっそくパートナーを叩き起こしてくるわ」
おそらく大仕事になるであろう厄介な家主に悪態をつく。ようやくノネットは誰のためのタキシードであるか理解する。
「でもキース様、寝てるんじゃ」
「寝ていない時間を探すほうが大変よ。直射日光作戦でいく」
彼は訪ねてこのかた部屋から一歩も外へ出ていない。安穏と眠りに着いている。メレの任務は彼の眠りを妨げることにある。
「……メレ様、ファイトです」
確かにと、一瞬だけ優しさを見せたノネットもすぐに掌を返した。
誰も見ていないのをいいことにメレは廊下を大股で歩く。淑やかに振る舞ってやろうという気持ちすらおこらない。
「キース! キース・ナイトベレア!」
これだけ騒がしくしておきながら一向に出向こうとしない住人に腹が立ち始めていた。あの中は防音も完璧か。せめてものたしなみにノックはしたが、返事があるなど期待はせず躊躇いもなく私室へ踏み込んだ。
「キース、いい加減になさい!」
標的の名を呼んでカーテンを引く。これで出てきてくれればいいのに、そう楽な相手ではない。
部屋の中心に忽然と置かれている黒い棺、ようするに棺桶。その蓋を力任せに持ち上げてやる。部屋は埃っぽいというのに棺桶だけは艶が良く、まるで鏡のようだ。
「え……」
その中で眠りについていた人物と目が合う。起き抜けに何が起こったのか、赤い瞳は把握しきれていない様子だ。
「ぎゃああああああ!」
一拍置いて事態を悟る。日光を浴びせられたキースは顔を覆い悶え苦しんだ。
「と、溶けるううううう」
絶叫しながら足元の方に丸まっていた毛布を手繰り寄せるが、メレも負けじと毛布を引っ張った。
「何を言っているの、溶けるわけがないでしょう。このわたくしが体質を改善してやったのに、寝ぼけるのも大概になさい!」
必死の叫びにもメレは冷静そのものだ。
ようやく光になれたころ、毛布の下から赤い瞳がちらりと顔を出す。
「へ? ええ? メ、メレディアナ、なんで……これ夢?」
ぼそぼそと歯切れが悪く、あれだけ絶叫しておきながら別人のようだ。
「夢に見るほど焦がれてくれてありがとう。良かったわね、これは現実よ」
「へっ?」
「随分前からお邪魔しているわ。とっとと起きなさい。そしてわたくしに協力するの」
「は、え? えっと……」
矢継ぎ早に告げられキースは目を白黒させている。