最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
ここでようやく家主は来訪者の訪れを知った。数日勝手に滞在されておきながら家主に見つからないのも考えものだが、ここで責めても意味はない。
新鮮な空気を吸うため窓を開けたメレはそのまま窓辺を陣取って宣告する。
「明後日パーティーに出席するのだけれど、貴方にも手伝ってもらいたいの」
「え、なんで?」
「わたくしの友人の中で顔と声が一番良いのは誰? それはあなたよ、キース」
「そんなの、知らない。俺は、ここで静かにしていたい……」
率直に褒めているにもかかわらずキースは震えている。隙あらば棺に戻ろうとするのを押し止めるのはなかなかに大変だ。ならばここで止めの一言。
「その静かな生活はわたくしの恩恵ということを忘れてはいけないわ」
「う、ううっ……」
半泣きのキースはなおも棺桶から出ようとしない。こちらが酷いことをしているような気分にさせられるが情けはかけられない。心を鬼にする道を選んだ。
「さあ、しゃんとなさい! まったく、最近の吸血鬼はサディスティックにドが付くほどの鬼畜使用が流行りだというのに貴方ときたら、キャラ変更を要求すると何度言わせるの?」
「そ、そんなぁ……」
「キースなんて素敵な名前が泣いているわ」
「別に、いいよ、それでも。なんなら改名だってする。……生まれ変わったら棺の妖精になりたい。俺のことは棺の精と呼んで」
「呼ぶわけないでしょう、恥ずかしい。使い魔にもごめんだわ」
律義に想像してから貶し、とにかくとメレは続けた。
「今回は事情が違うの。普段優しいわたくしも心を鬼にせざるを得ないほどに……。なにしろ相手が相手、万全の態勢で挑まなくてはいけない。貴方にも事情を話しておくけれど」
魔法のランプを奪われてしまったこと、あの憎たらしい伯爵のこと、ランプ争奪三本勝負について手早く事情を話した。
やがて全ての話を聞き終えた頃、キースは迷いなく言った。
「あのね、メレディアナ。それは君の不手際で、俺には関係ない」
「そう。ならわたくしも関係のない屋敷のカーテンなんて燃やしてしまおうかしら。ついでに棺は回収業者に割安で引き渡す。ああ、わたくしが破壊しても良いわね。得意だから! そのつもりで」
「ごめんなさい」
素直に謝れるのがキースの美徳である。
キースは猫背をさらに丸めて小さくなった。早急に謝罪するのは自らの運命を受け入れたということになる。ずるずると引き伸ばしても不利が覆ることはないと察したのだろう。懸命な姿にメレはかざしていた手を下ろす。いつでも炎の魔法を行使する体制を整えていたのだ。人目さえなければメレもやりたい放題である。
「わかればよろしい。大丈夫、貴方ならできるわ」
笑顔で手を差し伸べるも、キースにとっての絶望宣告でしかなかった。
新鮮な空気を吸うため窓を開けたメレはそのまま窓辺を陣取って宣告する。
「明後日パーティーに出席するのだけれど、貴方にも手伝ってもらいたいの」
「え、なんで?」
「わたくしの友人の中で顔と声が一番良いのは誰? それはあなたよ、キース」
「そんなの、知らない。俺は、ここで静かにしていたい……」
率直に褒めているにもかかわらずキースは震えている。隙あらば棺に戻ろうとするのを押し止めるのはなかなかに大変だ。ならばここで止めの一言。
「その静かな生活はわたくしの恩恵ということを忘れてはいけないわ」
「う、ううっ……」
半泣きのキースはなおも棺桶から出ようとしない。こちらが酷いことをしているような気分にさせられるが情けはかけられない。心を鬼にする道を選んだ。
「さあ、しゃんとなさい! まったく、最近の吸血鬼はサディスティックにドが付くほどの鬼畜使用が流行りだというのに貴方ときたら、キャラ変更を要求すると何度言わせるの?」
「そ、そんなぁ……」
「キースなんて素敵な名前が泣いているわ」
「別に、いいよ、それでも。なんなら改名だってする。……生まれ変わったら棺の妖精になりたい。俺のことは棺の精と呼んで」
「呼ぶわけないでしょう、恥ずかしい。使い魔にもごめんだわ」
律義に想像してから貶し、とにかくとメレは続けた。
「今回は事情が違うの。普段優しいわたくしも心を鬼にせざるを得ないほどに……。なにしろ相手が相手、万全の態勢で挑まなくてはいけない。貴方にも事情を話しておくけれど」
魔法のランプを奪われてしまったこと、あの憎たらしい伯爵のこと、ランプ争奪三本勝負について手早く事情を話した。
やがて全ての話を聞き終えた頃、キースは迷いなく言った。
「あのね、メレディアナ。それは君の不手際で、俺には関係ない」
「そう。ならわたくしも関係のない屋敷のカーテンなんて燃やしてしまおうかしら。ついでに棺は回収業者に割安で引き渡す。ああ、わたくしが破壊しても良いわね。得意だから! そのつもりで」
「ごめんなさい」
素直に謝れるのがキースの美徳である。
キースは猫背をさらに丸めて小さくなった。早急に謝罪するのは自らの運命を受け入れたということになる。ずるずると引き伸ばしても不利が覆ることはないと察したのだろう。懸命な姿にメレはかざしていた手を下ろす。いつでも炎の魔法を行使する体制を整えていたのだ。人目さえなければメレもやりたい放題である。
「わかればよろしい。大丈夫、貴方ならできるわ」
笑顔で手を差し伸べるも、キースにとっての絶望宣告でしかなかった。