最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「侮りは捨てよう。俺の負けだ」

 これまでの二戦、互いに学ぶものがあった。実に有意義な戦いだったとオルフェは語る。
 すなわち戦績は一勝一敗。

「あと一勝で故郷に帰れるのね。二、三日で戻ると告げてきたのに、こんなに長居することになるなんて……」

「旅行なんてそういうもんだろ? 気にすることないぜ」

「いえ、貴方のせいなのだけれど。そもそも旅行に来たわけではないと、しかと心に刻んで三戦目の内容を提示なさい」

「そう焦るな。せめてパーティーを楽しんでくれないか? 主催者からのお願いだ」

「……まあ、それくらいのお願いなら聞いてあげなくもないわね」

 華やかな雰囲気に感化されたのか、久しぶりの社交を楽しみたいという気持ちが芽生えていた。
 長年培ってきた令嬢としてのスキルで社交を楽しんだ後は、勝負で火照った体を冷ますべく隅に寄る。
 楽しんでくれと言った張本人はどうしているのかと探れば女性陣に囲まれているようだ。顔が良く家柄も良いとなれば当然だろう。

「オルフェリゼ様、とても素敵な催しでしたわ! 本当に来てよかったです。こんなに楽しいパーティーは久しぶりで、特にあの舞台! わたくし感動致しました!」

 その呟きはメレにとんでもない失態を気付かせた。

「やられた!」

「ど、どうしたの?」

 同じく遠目にオルフェを観察していたキースが心配そうにたずねた。

「考えてもみなさい。余興が成功して得をするのは誰か、どう考えても主催者のイヴァン伯爵よ。わたくしったら伯爵の評価を上げてしまったことになる!」

「いけないこと?」

「いけなくはないけれど不愉快。渾身の演出も最終的に伯爵の評価に繋がるなんて。ねえキース、何故かしら……試合に勝って勝負に負けたようなこの気持ち! やりようのないモヤモヤは一体どこへ向ければいいの!?」

 やるせない怒りを瞳に宿し、見つめ続けていたせいか、目が合う。気のせいか、距離が縮まっているような……

「メレディアナ、踊らないか?」

 気のせいじゃなかった。しかもダンスの誘いである。
< 49 / 108 >

この作品をシェア

pagetop