最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「早く出てきてくれないと、うっかり割ってしまうかもしれないわ。カウントダウン。三、二、い――」

「はいはいはーい! いますよ、いますから! あと三秒、三秒くださいって!」

 被せるような返答は鏡の中から聞こえた。本気で切羽詰まっているこちらの様子が伝わったようで何よりである。
 きっかり三秒後。鏡には美しい青年の姿が映っていた。柔らかな髪に人懐っこい笑みを浮かべている。

「そんなに慌ててどうかした?」

 鏡の中に住む青年、通称カガミ。彼はメレの生み出した精霊だ。悪いが安易な名称だというツッコミを受け付けている暇はない。

「カガミ! 昨日発送した商会の荷物にランプは交じっていなかった? ランプを手にした人間が映っていないか、すぐに調べて!」

「オーケー、このカガミにお任せあれ」

 恭しく頭を垂れ、鏡の中から青年の姿が消える。
 魔法の鏡は鏡に映った事象でさえあれば、どんなに遠くの出来事でも映し出せる。しかしその情報量が膨大ともなれば魔法の鏡とて即答出来ず、しばらくは世界中の鏡を検索する時間が必要になるだろう。
 青年の姿が消えた鏡には焦燥するメレが映る。ピンクの瞳は不安に揺れ、これが自分の表情とは嘆かわしいばかりだった。

「はあ……」

 本当にどうして、何故こんな失態を……

 そこからは延々とため息が連発された。ようやく腰を落ち着けはしたが、落ち着くどころか焦るばかりだ。その間自らを責め続ける主をノネットは健気に励まし続けた。

「き、きっと疲れてたんですよ! ほら、納期も迫っていて徹夜続きでしたし。それに、まだそうと決まったわけじゃ――」

「メレ、お待たせ。鏡を通して見たところ、エイベラに住む男が君の商会マークのついた箱からランプを取り出す姿が映っていたよ」

 ノネットの励ましも虚しく、あっさりと絶望宣告が下った。

「……ありがとう。さすがね」

「役に立てて嬉しいよ。何かあったらまた呼んでくれ。おそらく次はすぐになるだろうけど、今度は穏便に頼みたいね」

 答える気力のない主に代わってノネットが鏡に向けて手を振っていた。
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