最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
 判断を誤ったとは思わない。キースは現在も傍にいてくれるのだから。
 たとえ自慢の髪が白く染まろうと、友人を助けられたのならこの先もメレが後悔することはないだろう。

「これ以上は、さすがに怒るかな?」

 力なく笑ったキースと視線が交わり我に返る。

「視線が痛いや。ごめんね、伯爵。続きは内緒」

 下ばかり見ているはずのキースが前を向いている。最初から気付かれていた。それを承知で語っていたのだ。

(キースのことを勝手に決め付けていたのはわたくしだった)

 急なお願いにも応えてくる。自分の意思を主張も出来る。そんな頼れる友人だった。

「彼女は、優しいんですね」

 キースは目を丸くしてから小さく頷いた。敵からの評価に本人も目を丸くしているところだ。

「なんか、嬉しい。メレディアナのこと、そんな風に理解してくれる人、いるんだ」

「俺たちも仲良くやれそうじゃないか?」

「そう、だね。伯爵とは……友達になれそう、かも」

 これもメレが繋いでくれた縁だとキースは控えめに笑う。心配は杞憂だったとメレは探るような行為を止め、素直に幸せに浸ることにする。
 微笑ましい気持ちを胸に華やかな会場を眺めていれば、そんなメレに飲み物を差し出す人物がいた。

「あら、気が効くのね」

 熱中していたせいでグラスの中身は温くなっていた。

「本日の功労者様ですから、さぞお疲れではないかと思いまして」

「それは貴方もでしょう」

 しかも彼は続けて演奏を披露した後だ。トレイ片手に会場を回るラーシェルを労った。

「メレ様の活躍には及びません。感服いたしました、色々と。その立ち回り、ぜひ今後の参考にさせていただきます」

「こちらこそ、素敵な演奏をありがとう」

 ラーシェルの演奏はメレが勝つために華を添えてくれた。であれば反論は飲み物と共に飲みほそう。

「余興もさることながら、主とのワルツは見事なものでした。華麗なワルツのはずが、戦いの演武のようだともっぱらの噂。周囲は美男美女のカップルに見惚れど、当の本人――主に女性の方はまるで仇を見つめているようだと」
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