最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「だろうな。俺もいつ足を踏まれるかと思ったよ」

(噂をすればなんとやら!?)

 褒めているのか馬鹿にしているのか、判断に困るメレに変わって同意したのはもう一人の当事者である。

「わたくしがそんなミスを犯すはずないでしょう。貴方、キースと仲良くしていたのではなくて? さてはわたくしも丸めこめると思ったわね。大間違いよ」

「素晴らしい友人を紹介してくれた礼だ。俺の友人も紹介してやろうと思ってな」

「いえ、別に嬉しくないわ」

 まさかとは思うけれど、わざわざ友人を紹介するためにやって来た? 

「――ってラーシェルは!?」

 なんという素早さ。退散するのなら主も連れて行ってほしかった。

「あそこにいるのが――」

「だから人の話を聞きなさい」

「父の代から交流があるカレイド男爵家の跡取りだ」

「そう……」

 こんな時ばかりは優秀な記憶力が恨めしい。そもそも手の込んだ名簿のせいで出席者の名前はほぼ暗記している。あとは顔と名前が一致すれば完璧だ。何の得にもならないが。

「そいつと話しこんでいるのが俺の親友だったエセル・シューミット、侯爵家の長男だ。その隣の派手な女性は婚約者のレーラ・ミゼリス男爵令嬢」

 視線を嗅ぎつけたエセルが声を上げる。

「やあ、オルフェ!」

 オルフェは片手を上げることで呼びかけに答えてみせた。

(確か、学生時代からの付き合い……だったかしら)

 メレの脳内では不要な情報が再生された。

(これはチャンスね! あとは友人同士でご自由にの展開にもっていくわよ)

 好機とばかりに席を外そうとしたのだが。オルフェによって逃げ道を塞がれていたことに気付く。

(しまった挟まれた!)

「最近はパーティーもご無沙汰だったのに珍しいね」

「このところ忙しくてな。挨拶が遅れて悪かった」

「忙しい、ね……」

 オルフェ相手なら黙って逃走で済むけれど、初対面の相手に挟まれてはそうもいかない。

「いや、遅れたのは僕なんだ。気にしないでくれ。……ところで、そちらの女性は?」

 含みを持たせたような呟きだ。向けられた視線にも探るような意図が込められ、あまり心地良くない。逃げる機会を逸してはもはや挨拶する選択肢しか残っていない。 
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