最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「素晴らしい!」

 喜々として話を進めるエセルの隣で、レーラはつまらなそうに巻かれた髪をいじっていた。余所見を繰り返すうちに馴染みの友人を見つけたようで、さっさと姿を消してしまう。
 若い女性が商談に楽しさを見出せと言われても難しいことだろう。その点に関しては同情する。

 エセルから解放されたメレは休息を求め、バルコニーから星を眺めていた。

(長かった……)

 ガラス一枚隔てた向こう側が別世界のように遠く感じる。

「疲れたか?」

 幻想に浸っていたはずが、気安く話しかけられる。残念なことに心当たりは一人だけだ。

「誰に言っているの。まさかわたくし? だとしたら出直しなさい」

「どうやら見間違えたようだ」

 呆れるほど素早く掌を返し隣を陣取る。

「こんなところにいて良いのか? エセルたちと盛り上がってたろ」

「同じ言葉をお返ししてあげましょうか、主催者様?」

 疲れていないと強がった後では疲弊したとは言いにくいものがあった。

「そうかい」

 追求しないということは彼も同じかもしれない。
 メレは振り返らずに対応していたのだが、そっと隣を陣取られ挙句柵に体を預けるオルフェに目を見張る。

「貴方、なにを平然とここに居座る図に納まっているの?」

「相席させてくれないか? 俺ほど顔が良いと近づこうとする女性が多くてな。逃げてる最中だ」

「自慢のつもり? 残念、相手を間違えたわね。わたくしも同じ境遇ですけれど何か」

「だろうな」

(ずるい人……)

 真っ向から認められると気恥かしく、オルフェの苦手なところでもあった。嫌味の応酬をしているかと思えば、さらりと恥ずかしげもなく肯定してみせるのだ。自分の方が歳上なのに、歳下のような気持ちを味わう。

「貴方の中身を知っていれば彼女たちも近寄らないでしょうに」

「おい、言っておくが俺をそういう風に評価しているのはお前だけだぞ」

 真面目な顔で言われメレは素で驚いた。

「そうなの? 見る目がなっていないのね。わたくし初対面から貴方には警戒しか抱けなかったのに」

「へえ、一目で俺の本質を見抜いたと?」

 喜ばせたつもりは微塵もないのに、何故か嬉しそうな雰囲気である。闇夜に浮かぶ笑みは不敵だが、それは絵画のように神秘的で――実に彼らしい。同時にオルフェリゼ・イヴァンについて深く知る予定はなかったという誤算に目眩がする。
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