最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
 会場にいれば嫌でもオルフェの噂を耳にする機会は多い。
 社交界から遠ざかっていたイヴァン家の当主が久しぶりにパーティーを主催したこと。婚約者に逃げられて以来、ご無沙汰だったこと。
 それも相まって彼は噂の中心にいた。

「きっと――」

 言いかけて止める。
 その婚約者はオルフェの本質を見抜けなかった。そう言おうとしたのだが、この件について触れるのは止めておこう。

「わたくしには関係のないことね」

 他人の傷口を抉る趣味はないのでそっぽを向いて話しを逸らす。

「話題が気にくわないのか? だったら……魔法のランプ、どうやって作った?」

「いえ、まず話題の問題ではないと言わせて。だいたいそれを訊いてどうするつもり? 量産でもするのかしら。ああ怖い、商売仇だわ!」

 呆れを滲ませるが前の話題を蒸し返されても困るのはメレだ。利用してやろう。大袈裟なリアクションで話を逸らそうと画策する。

「聞いたところで作れるわけないだろ。俺は普通の人間だ」

「そうね。別に話しても構わないけれど、対価に何をいただけるのかしら?」

「さすがオーナーだけあってしっかりしているな」

「なんとでも。タダでくれてやるには惜しいもの」

 当然だと笑い飛ばす。するとオルフェは名案があると告げた。

「パンケーキ、また作ってやるよ。気に入ってくれただろ?」

「……まあ、悪くないわね」

 見透かされているのは不本意だがパンケーキに罪はない。けっして美味しさに懐柔されたわけではないと二回明言してから誘いに乗った。

「魔法というものはね、自然から力を借りているの。けれど時代の流れと共に力は減っている。だから魔法にも制約が増えているし、強い使い手も減っているわ」

「まるで文明の発展と引き換えだな」

「そうね。じき人の手で何でも可能になるのでしょう。遠くの人と会話することも、空を飛ぶことも」

 遠い未来を語る。オルフェは是非見てみたいと賛同するが、未来を待たずとも彼らには可能だ。
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