最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「たとえ隣に居るのが気にくわない敵だとしてもアイスに罪はないものね。ブラン家ではあまり食べないものだし、美味しく頂いているわ」

「そうなのか? なら、エイベラは良いぜ。美味い物がたくさん、流行の最先端でもあるし退屈しない」

「ええ、素敵なところね」

「俺が治める領地だからな」

 そういうことかとエイベラ自慢が始まったわけに納得する。

「けれどここはわたくしの居場所ではない」

 エイベラはメレが知る昔の姿と変わっていた。それは領主の力が大きく、だからこそ皮肉るような言葉が口をつく。長居すれば『嫌な人間』でいてほしい敵に愛着が生まれそうになるから。それくらいオルフェの言葉には含みも棘もなく――真っ直ぐだ。

「関係ないだろ。居場所なんて誰かが決めるものじゃない。許しが欲しいなら俺が受け入れてやろうか?」

 言葉の通り、オルフェは両腕を広げてみせる。領主直々の移住許可とはなんて贅沢だろう。でも飛び込めない。飛び込むわけにはいかない。 

「いいえ。早く決着をつけて自分の居場所に戻るわ」

 あそこには残してきた物がたくさんある。
 物も人も、思い出さえも。

「そうか。それがお前の望みで幸せなら、俺はこれ以上何も言うべきじゃないな」

 掌を返すようにあっさり引き下がる。彼は踏み込むべきところを見極めていた。
 もし、強く乞われていたら?
 そう考えること自体に呆れてしまう。まるでそうしてほしいと望んでいるようで嫌になる。
 少しだけ、ほんの少しだけさみしいような気持ちになったのは、あの手この手と考えた反論を使う必要がないせいだ。

 祖父の代から懇意にしていると案内された店は小さな造りだった。それでいて指輪からティアラまで豊富にとり揃えられ選ぶには申し分ない品数である。照明の当たる角度を計算に入れ、より美しく輝けるよう展示された主役たちには目を奪われるばかりだ。
 幸い店内に客はおらず、ゆっくり吟味することが出来た。
 改めて眺めるほど種類が多く、この中から一つを決めるのは難しいことだろう。宝石に慣れていない視点では尚更だ。頼まれたからには役目を果たそうとメレは自らの意見を伝える。
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