最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
 たとえ一瞬で乾かすことが出来ようとタオルで拭ったのは素直に嬉しいと思えたからである。無論オルフェもそれを承知で投げただろう。それでもあえてタオルを渡してきたのは心配の現れなのかもしれない。

「失礼するわね」

 歩き出したメレは風を纏った。さすがにこのままでは床が水浸しになってしまう。

「お前、エセルと一緒だったのか」

「ええ、偶然ね。濡れたわたくしを見かねて送ってくださったのよ。それが何か?」

 帰る直前だったはずのオルフェは方向転換しメレの腕を取って連行する。

「ちょ、ちょっと……?」

 自分の家のように勝手知った足取りで進まれては二重の戸惑いが生まれた。
 問答無用でノネットの元へ連れて行かれる。

「メレ様、お帰りなさい!」

「た、ただいま?」

 当たり前のようにオルフェを受け入れているノネットに目眩が。

「ノネット。わたくしの留守中に、勝手に対戦相手を家に上げてはいけないわ」

 きょとんとしたノネットは「でも……」と続ける。

「キース様もオルフェ様なら構わないって、棺桶越しに許可してくださいましたよ」

「キース……」

 彼らを顔見知りにしてしまったのは誤算だった。ノネット一人ではオルフェの侵入を渋ったかもしれないが、家主の許可と言う免罪符があれば話は別。キースも顔見知りの来訪に警戒することはないだろう。

「どうぞ! 特製のハーブティーです」

 冷めてはいけないとメレはソファーに腰掛け口を付けた。それはともかくとして理解しがたいことがある。

「それで? どうしてイヴァン伯爵様は、わたくしの正面に座って一緒になってティータイムに興じているのかしら。ノネットも、わざわざ給仕することないのよ」

「でも、せっかくメレ様の心配をして訪ねてくれたわけですし」

「感謝するぜ、ノネット。美味かった」

「ありがとうございます!」

 自分に褒められた時よりも喜んでいるようなノネットに主としては複雑だ。

「もう用は済んだでしょう。居座る理由はないはずよ」

「メレディアナ、俺の家に来ないか」

「ゴホッ!」

 嗜んでいたお茶を噴き出しそうな驚愕が襲う。とっさに呑みこんだせいで若干むせ返った。

「――ケホッ、な、もちろん返事はノーだけれど、いきなり何? 理由くらいは聞いてあげる」

 喉の痛みにうっすら涙を浮かべながらも意思表示は怠らない。
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