最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「理由を聞くまでもなく即答かよ」

「当然ね。どうしても命令を聞いてほしければ」

「ランプには頼まないしランプも渡さない」

「あら残念」

「これは命令じゃない。ただお前が心配だから傍に、目の届く範囲にいてほしいと思っただけだ」

「何故わたくしの心配を、そもそも何から? 仮にわたくしがいなくなればランプはあなたのもの。それが心配ですって? おかしいわ、無縁の言葉だと思うけれど」

 そうは言っても彼がここに居る時点で矛盾している。心配でここにいるわけで、改めて考えてみると可笑しいことだらけだ。

「それは、そうだな……」

 初めて気付いたという様子だ。彼自身その考えに至らなかったらしい。

「エセルが、お前のことを嗅ぎまわっているんだ」

「怪しまれるような行動を取った覚えはないわ。確かにわたくしの経歴は調べられて困るものだけれど、人間相手にバレるほど迂闊ではないのよ」

 先ほどから話題に上がっている人物。彼とはパーティーで言葉を交わし、顔見知りとして送られただけの関係である。シューミット家ともかかわりはない。

「違う。……あいつは女に見境がないんだ」

「は?」

「だから! 言葉そのままに、『お前が狙われている』ということだ」

 メレは色々と出かかった言葉を呑み込んだ。

「……言いたいことは把握したわ。つまり、わたくしが美しいが故に愛妾に狙われていると。誰かさんの親友はろくでもないのね」

「言ったろ、親友だった。あいつの婚約者は俺の元婚約者だ」

「……そう」

 更に言葉が出ない。つまりオルフェは婚約者に逃げられ、挙句親友にその座を奪われたということになる。事情を知ってみれば先日のパーティー、三角関係の修羅場に発展してもおかしくない構図だ。

「素直に同情はするけれど、泥沼愛憎三角関係にわたくしの名を連ねるのは止めてちょうだい。出演料をいただいたとしても遠慮するわ」

「勘違いするな。レーラを愛していたわけじゃない。もちろん愛そうと努力はしていたが」

「ストップ。伯爵様の恋愛事情に興味はありません」

 黙っていれば事細かに解説されそうなので切り捨てる。
 誰もが隣にいるメレを見つけて誤解するのは、そういった恋愛事情が根底にあるからだろうか。
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