最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
 じき夕食の時間になるだろう。その前に話があるとメレはオルフェの部屋に呼び出されていた。客間ではなく、さらにラーシェルも待ち構えていることから大事な話なのだと直感する。

 扉が閉まり、小さく鍵の閉まる音がする。秘密の話というのなら、彼らにとっての話題は一つだ。
 部屋の主は奥へと進む。てっきり机に向かうのかと思えば見向きもせずに窓辺に寄った。
 白いカーテンを開けば薄闇が広がっている。日が沈む前の幻想的な色合いだ。

「メレディアナ。見てみろよ」

 隣に立ち視線の先を追えば白い薔薇が咲いている。

「綺麗ね」

「白薔薇祭り、憶えてるか?」

「わたくしの記憶力を侮らないことよ」

「良い答えだ。待たせて悪かったな」

 その言葉を待っていた。三日どころか、オルフェの答えは早いものだ。

「毎年、祭りを楽しんだ者に与えられる称号『薔薇王』というものがある。最終日に選ばれることになっているんだが、三戦目は『薔薇王』に選ばれた者の勝ちとする」

 与えられた条件を整理する。そしてまた訳の分からない提案をという結論に達した。

「もう少し詳しく教えていただける?」

「白薔薇で飾るのは見ただろ。祭りを楽しんでいる相手に白薔薇を贈る風習もあってな、受け取った方はその薔薇で自分に着飾るんだ。つまり、もらった白薔薇の多い奴が勝ち。単純明快だろ? ラーシェル!」

 入り口付近に立つラーシェルに命が下る。

「かしこまりました」

 ラーシェルが指をならす。もう一方の手には本のようなものを広げいていた。
 カーテンはひとりでに閉まり、灯りが消える。部屋は闇に包まれた。

「わたくしが怯えるとでも?」

 同じような演出を披露したメレは怯える観客ではない。

「まさか。白薔薇祭りは初めてだろ? わかりやすく教えてやろうと思ってな」

 ラーシェルの本から小さな紙が飛び立つ。蝶のような羽はないけれど、まるで意思があるように舞い紙吹雪がメレを襲った。

(なるほど、密室にしてこれを見せようというわけね)

 本ではなくアルバムだった。
 目の前に広がるのは部屋いっぱいの絵、鮮やかに甦る景色。オルフェの部屋にいたはずが街に下りているような錯覚を起こす。駆け出し、飛び込んでしまえそうなほどリアルな魔法。

「アルバムから記憶を構築しているのね。さすがわたくしのランプだわ」

「多少は私のアレンジが加わっておりますが、概ね本物通りかと」
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