最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
 祭りの最終日、すなわち決戦の日である。

 文句なしの快晴だ。からっとした空気に乗って運ばれるのは薔薇の香りで、この日ばかりは薔薇がパンに勝る。ベランダに飾られた鉢植え、玄関に吊るされたリース、いたるところで白薔薇が客人をもてなす。白く彩られた街は幻想的で薔薇の都の本領を発揮していた。

 その白に埋もれぬよう、メレは赤を基調とした簡易な服装を選ぶ。ドレスなんて動きにくいものは脱ぎ捨てて足元も軽快なブーツだ。
 下調べは完璧。シミュレーションをくり返し、行程表も頭に叩き込んでいる。時間の許す限り走り回ることになるだろう。ノネットはオルフェにつけるためサポートは期待できないが、それは相手も同じこと。
 メレは早くも髪に二輪の白薔薇を挿していた。初めての祭りを楽しんでほしいとの思いを込めてフィリアとカティナに贈られたものだ。
 その様子を見ていたオルフェは「母さんもカティナも、毎年俺にくれていたのに裏切るなんて」とぼやいていた。もっと悔しがってほしい。

「あなたは毎年毎年満喫しているでしょう。今年くらいメレディアナ様に譲っても罰は当たらないわ」

「そうよ、お兄様。薔薇もメレお姉さまの方が似合うもの!」

 たとえカウントに入らない薔薇だとしても朝から心強い味方を得たメレである。少なくともオルフェが貰うことは阻止できたのだから。そんな二人はチャリティーのため既に出掛けてしまった。

「最後の勝負、幕開けのようね」

 長かった魔法のランプ争奪戦も今日で終わると思えば感慨深い。
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