最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
 ノネットがいるということは、ここにもう一人いるはずだ。
 あろうことかどこかで見たようなシルエットは、カップ片手にティータイム中だった。

「余裕じゃないの……」

 あまりの寛ぎぶりに恐れ入る。ざっとオルフェの姿を確認したところ、胸ポケットに三本、腰にコサージュのようにして五本ほど束ねていのが見られた。

(意外と少ない? ――て、何よあれ!)

 背後の籠にたんまりと薔薇が詰まっていることに気付く。時間にして昼を過ぎたところなのに、どうしたら花山が形成されるのか。

「オルフェ坊ちゃんたら、今年もしっかり満喫されているのね」

「本当、あの楽しそうな顔ったら。貴族様なのに気取ったところがなくて、親しみやすいなんて珍しい方だよねえ」

「そうそう! あたしの店、花探しのイベントをやっていたんだけど、あっという間に攻略されてしまったわ」

「見てた! 年々スピードが上がって上達されていない? 先々代や、先代もだけれど、イヴァン家の方々ってお祭り好きよね。寄付までしてくれるし嬉しいことだわ」

「あれ何本あるんだ? 今年も優勝は決まりかね。連覇を止めろーなんて街の連中も気合い入れてたけど難しいか。阻止出来たら、よほどの大物だわ」

 雑踏の中にいるはずが周囲から音が消えていた。
 時間は昼を回ったところ、太陽ならまだ空で輝いている。周囲はオルフェに夢中で気付いていないだけだ。メレの籠にも多くの薔薇が収まっており、彼を止められる唯一の可能性がここにいることを。だから諦めてはいけない。
 オルフェは不意に薔薇を手に取った。それを顔の前で見せつけるように掲げると視線は遠くへ投げかける。その仕草に女性陣からは黄色い悲鳴が上がった。「オルフェ様の視線は私に向けられたものよ!」なんて争いが起こるほど色香があるのに視線を受け取った張本人は至極不機嫌である。

「よくも、よくもまあ!」

 挑発に違いない。メレは踵を返し次のイベントを目指した。
 勝てるものなら勝ってみろ? 越えられるものなら越えてみろ? 
 良い度胸。細められた蒼い瞳に向けて、今に見ていろと対抗心を燃やしていた。
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