最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「薬まで使って何が目的?」

「貴女が姿を消したらオルフェが困るだろうって。上手くいったらエセルが宝石を買ってくれるの! だからわたくし頑張ったのよ」

 人に薬を盛っておきながらレーラは無邪気な子供のようだ。楽しみだと、しきりに手を合わせてはしゃぐ姿に共感するのは難しかった。

「真っ赤なルビーの首飾りも、空のように蒼いサファイアのイヤリングも、夜空を閉じ込めたようなパールのブローチも全部! そうよね、エセル?」

 背後の扉を開けたのはエセルだった。

「エセル、もういいわ。個人的にお話してみたかったけど、この方つまらないわよ。貴方、こんなのが欲しいの?」

「そう言ってやるなよ。彼女が可哀想だろう? 彼女は最高さ」

 不満げな顔をしたレーラのためにエセルは「もちろん君の次にね」とつけ足している。

「もう、しかたのない人ね。でも正妻はわたくしの約束よ?」

「もちろんだよ」

 勝ち誇ったように高笑いするレーラに何がおかしいのか問い正したくなる。彼女も利用されているだけではないのか。

「随分とわたくしを追いまわしてくれたようね。ご用件があるのなら手短にお願いしたいわ」

 メレは毅然とエセルの前に立ってみせた。

「随分と嫌われてしまったようですね」

「わたくし忙しいのよ」

「どうせオルフェの差し金だろ。なら単刀直入に言わせてもらうが、僕の妻になるといい」

 実に明快な要求だ。口調には丁寧さがなくなりこれが彼の本質だと感じさせる。

「隣にいる方、貴方の婚約者ではなくて?」

 耳を疑う発言に視線を移すがレーラは動揺もしていない。

「確かに正妻は彼女の約束だが、別に一人でなくとも構わない」

「わたくしに妾になれと言うのかしら」

 侮辱もいいところだ。

「言葉が気に入らなければ契約と呼んでもいい」

「契約?」

「侯爵家との繋がりは君にとっても有り難い話だろ? それに君は美しい。伯爵家の出身で大商会のオーナー、僕にとっても利益がある。完璧だ!」

 まるで物のように扱ってくれる。

「オルフェは君を気に入っているようだが、あいつには勿体ないよ。イヴァン家はじきに没落する。その時君が巻き込まれては可哀想だと思ってね」

「何をするつもりかしら?」
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