最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
伯爵との出会い
けれど旅立ちなんてものは魔女にとっては一瞬だ。小説に描かれるような情緒もなしに、メレたちは真っ暗な部屋へと降り立っていた。同時にムワッと埃が舞う。
「コホッ! メレ様、なんだかここ埃っぽくないですか?」
「コホッ! ええ、まったく」
まず空気が悪い。とにかく埃っぽい。今しがた出口に利用した鏡を振り返れば埃まみれという有様だ。湿気はないとしても乾燥しているので喉が痛くなる。
「また換気を怠って!」
恨み事を連ねながらカーテンを引く。部屋は二階のようで見下ろせば道路を走る馬車が目に付いた。
広い道は舗装が行き届き平坦で、そのまま視線を上げれば道に沿って家が並んでいる。どこに視線を向けても人が映りこみ、広大な敷地はあれど人気のないブラン領とは大違いだ。すなわち外に広がるのは都会エイベラで間違いはないだろう。
「カガミ。ランプはもう使われてしまった?」
「まってくださいよー……ちょっと、よくわからないかな」
カガミは国中の鏡と繋がっているが、そこに映った物事しか把握できないという欠点もある。
「つまりどの可能性も考慮しなければ、ということね」
メレは口元に手を添えて思案する。
「一つ、相手がただの誤発送だと思っている場合。謝罪し正規の納品、かつお詫びの品を差し出して丸く収めるわ」
「なるほど!」
期待に満ちたノネットの眼差しは心地良かった。
「わたくしのお客様対応力を見せてあげるわ」
「さすがです!」
しかしメレは興奮気味なノネットを制し重々しく語る。
「でも油断は大敵よ。二つ、すでにランプが使用され人間がその価値に気付いている場合。……まず取り替えに応じないでしょう。ただの化粧水よりよほど価値があるもの」
「そ、その場合はどうしたら?」
ごくり――ノネットの喉が鳴る。
メレは不安を和らげようとつとおめて穏やかに微笑んだ。
「決まっているでしょう、戦争よ。わたくしがただの人間に遅れをとると思って? 立てついたこと後悔させてやるから安心なさい。ランプの精に負けてやるつもりはなくてよ」
台詞で台無しだ。おまけに目が笑っていない。
「う、うわー……」
あれ? おかしいな? 不安しかないぞとノネットは数歩身を引いていた。
「算段がついたところで行動に移しましょう。事態は火急、家主への挨拶は後よ!」
「イエス、メレ様!」
久しぶりの都会に浮かれているのかノネットの返事はやけに明朗だ。事態が収拾した暁には日頃の感謝もこめてゆっくり遊ばせてあげたいと密かに計画を立てる。
この時はまだあんなことになるなんて微塵も思っていなかったと、後にメレは語った。
「コホッ! メレ様、なんだかここ埃っぽくないですか?」
「コホッ! ええ、まったく」
まず空気が悪い。とにかく埃っぽい。今しがた出口に利用した鏡を振り返れば埃まみれという有様だ。湿気はないとしても乾燥しているので喉が痛くなる。
「また換気を怠って!」
恨み事を連ねながらカーテンを引く。部屋は二階のようで見下ろせば道路を走る馬車が目に付いた。
広い道は舗装が行き届き平坦で、そのまま視線を上げれば道に沿って家が並んでいる。どこに視線を向けても人が映りこみ、広大な敷地はあれど人気のないブラン領とは大違いだ。すなわち外に広がるのは都会エイベラで間違いはないだろう。
「カガミ。ランプはもう使われてしまった?」
「まってくださいよー……ちょっと、よくわからないかな」
カガミは国中の鏡と繋がっているが、そこに映った物事しか把握できないという欠点もある。
「つまりどの可能性も考慮しなければ、ということね」
メレは口元に手を添えて思案する。
「一つ、相手がただの誤発送だと思っている場合。謝罪し正規の納品、かつお詫びの品を差し出して丸く収めるわ」
「なるほど!」
期待に満ちたノネットの眼差しは心地良かった。
「わたくしのお客様対応力を見せてあげるわ」
「さすがです!」
しかしメレは興奮気味なノネットを制し重々しく語る。
「でも油断は大敵よ。二つ、すでにランプが使用され人間がその価値に気付いている場合。……まず取り替えに応じないでしょう。ただの化粧水よりよほど価値があるもの」
「そ、その場合はどうしたら?」
ごくり――ノネットの喉が鳴る。
メレは不安を和らげようとつとおめて穏やかに微笑んだ。
「決まっているでしょう、戦争よ。わたくしがただの人間に遅れをとると思って? 立てついたこと後悔させてやるから安心なさい。ランプの精に負けてやるつもりはなくてよ」
台詞で台無しだ。おまけに目が笑っていない。
「う、うわー……」
あれ? おかしいな? 不安しかないぞとノネットは数歩身を引いていた。
「算段がついたところで行動に移しましょう。事態は火急、家主への挨拶は後よ!」
「イエス、メレ様!」
久しぶりの都会に浮かれているのかノネットの返事はやけに明朗だ。事態が収拾した暁には日頃の感謝もこめてゆっくり遊ばせてあげたいと密かに計画を立てる。
この時はまだあんなことになるなんて微塵も思っていなかったと、後にメレは語った。