最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
「簡単なこと、不正を押し付けるつもりでいる。今後のためにも僕についた方が賢明だ」

 温かく迎え入れてくれたフィリア。姉のように慕ってくれカティナの顔が浮かぶ。エセルは優しい彼女たちも苦しめようというのだ。

「随分と余裕なことね。わたくしが断るとは考えていないのかしら」

 下卑た眼差しに晒されるなんてごめんだ。

「侯爵家を敵に回すなんて愚かな真似、聡明な君はしないだろ? ブラン家のご当主は随分と高齢のようじゃないか。養女の分際で余計な不安を与えたくないだろ?」

「そういうこと……」

 脅すつもりなのだ。
 本物の、ブラン家に生まれたメレディアナは死んだことになっている。表の世界で老いないまま何年も生きることは難しい。だからメレディアナ・ブランは病気で死んだ。
 身寄りのない少女がいた。彼女は当主の亡き姉によく似ていたことから同じ名を与えられ幸運にも貴族の養女にされた。それが世間の知る今のメレディアナ・ブランの肩書である。

「人質まで用意して周到なことね。言っておくけれど、ブラン家に手を出したら容赦しないわ」

「そう毛嫌いしないでください。僕なら君の欲しい物を何でも与えてやれる。あいつとは違うんだ」

 レーラも同じ手口で誘惑したのだろうか。

「ねえ、貴女彼の婚約者なのでしょう! こんなことに手を貸していいの!?」

「あら、何か問題でも?」

 メレの思惑は外れていた。すべてを知ってなお、レーラは悪事に加担している認識がないのか首を傾げている。彼女は婚約者よりもエセルを選んでしまった。この場にはメレの話が通じる相手がいそうにない。

「僕はあいつが嫌いだ。才能、人望……憎いとさえ思っている」

「ええ、それはわたくしも同意見だけれど」

 不覚にもエセルに共感してしまった。何度も苛立ち反発し憎いとさえ感じてきた相手。まさかの返答にエセルも「え?」と呟いたきりである。
 だがメレとエセルの感情は決定的に食い違っていた。

(わたくしだって彼の才能に嫉妬した。魔女でもないくせに、完璧にランプを使いこなしてみせるから!) 

 けれどメレはオルフェの力を認めている。嫌いでも、憎くても、信頼に値する相手だと思っている。言動に理不尽はなく、認めざるを得ないと最終的に折れるのはいつもメレで、だからこそ憎かった。そんな人をメレが裏切ることはない。
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