最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~
 ところがメレの発言を聞いてエセルは勝利を確信し酔いしれている。

「ああ、親友が裏切ったと知ればどんな顔をするだろう。そしてまた女に逃げられたとなれば……想像しただけで楽しみだ」

「可哀想に」

 妬みばかりの暗い瞳に同情する。

「ああ、あいつがか?」

「いいえ、貴方がよ。イヴァン伯爵はあなたのことなんてとっくに親友ではないと言い切っていたわ。そうとも知らず可哀想なことね」

「何だと?」

「思い上がるのも大概になさい。わたくしの欲しい物を与えるですって? 貴方には無理よ。わたくしの欲しい物はイヴァン伯爵でなければ与えられないの!」

 お金では買えない魔法のランプは彼の手の中だ。

「田舎貴族風情が思い上がるな!」

 田舎の何がいけない。両親が愛し、託された領地を守るのが娘の務めだ。メレはブラン領を愛している。それすらこの男は踏み躙ろうというのか。

「貴方イヴァン伯爵が羨ましいのかしら? なんて器が小さいの。幼稚なことね」

「口を慎め」

 それに比べて彼は大きすぎるというか、おおざっぱというか、豪快というか……メレが魔女でも気にしない。

「婚約者を奪って没落を画策して、貴方たちは揃いも揃って大馬鹿よ。イヴァン伯爵の良さを知りもしない!」

 これでもう穏便には済まないだろう。相手はエセルとレーラだけ、気絶させてしまえば目撃者はいなくなる。部屋中の家具をひっくり返して驚かせてやろうか。

(こんな人間が彼の傍にいたなんて。それも一番近く、親友と婚約者だったなんて!)

「わたくしだったら彼にそんな思いをさせたりしない!」

 オルフェが裏切らない限り、メレが彼を裏切ることはない。

 想像して苦笑する。また、あるはずのない末来だ。
 自分は魔女でランプを取り戻せば故郷に帰るのに、祭りの空気に当てられ浮かれてしまったのか。

(そうよ、ランプ!)

 大切な勝負の途中だった。あれからどれくらい時間が経ったのだろう。もう、遅いかもしれない……
 初めて敗北について考えた。そしてラーシェルになら託せると思った。

(たとえわたくしが負けても彼になら……)

 どうやら負けても悔しいだけで済みそうだ。世界が亡ぶことはない。
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