ナルシス
やれやれと言う顔の朗に

「朗叔父ちゃん、暇なの?こんな時間に、こんな所に来ていて。」

鞄を投げ出してソファに座る夕璃。

朗は隣に腰掛けて、
 


「ユーリを心配して来たんでしょう。」

と苦笑する。
 

「それはご苦労様。でも大丈夫よ。私のことは、心配しなくても。」

生意気に言って顔を背ける夕璃。

光子にそっくりな横顔。

朗が初めて会ったころの光子と近い年頃。
 


「ユーリは賢いから。自分の無駄使いは、しないと思うけど。世の中には悪い奴もいるからね。夜遊びばかりしていると、付け込まれるよ、そういう奴らに。」

光子に届かなかった思い。

今では懐かしく振り返ることができる。
 


「ご忠告ありがとう。でも、危険はどこにでもあるからね。このお屋敷に一人でいて、賊が押し入ったら逃れようがないわ。」

朗は夕璃の寂しさを理解していた。

夕璃の言う通りだ。

こんな広い家に一人でいるくらいなら、外で遊んでいた方が良い。
 


「悪いパパとママだね。」

朗は、夕璃を抱きしめて言う。

小さい頃のように抱き上げることはできないけれど。

夕璃の頭を胸に抱く。

まだ高校2年生の夕璃。

両親のぬくもりに飢えていたから。
 


予想外に素直に、夕璃は朗の胸に抱かれていた。

小さな頃の夕璃にしたように、優しく背中を叩いていたら、夕璃の肩が震えだす。

だんだん大きく波打って、しゃくり上げる夕璃。
 

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