ナルシス
「もういいよ。寂しい時もあったけど、もう忘れちゃったから。私もいけない所、たくさんあったし。」

項垂れる徹の肩に手をかけて光子は言う。

夕璃とよく似た黒目勝ちの大きな目。

その目は深い優しさを蓄えて徹を包み込む。



昨夜から徹を覆っていた後悔と反省が許され、溶けていく。

徹は激しく駆り立てられる思いで言う。
 


「光子、今すぐ抱きたい。いい?」


優しく頷く光子を徹は抱き上げる。

昨夜、夕璃を抱いたように光子をベッドに運ぶ。
 

「どうしたの。急に。」

照れたように囁く光子の唇を塞いだとき、徹は何年も忘れていた思いに目覚める。

熱く激しく、徹が教えたままに応える光子。


『俺はこんな素晴らしい光子を、何故放っておいたのだろう。』

数年振りに満たし合った二人は、幸せな気怠さに微睡む。

 
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